最初から「非核化」する気はなかった北朝鮮 膠着する米国との協議
非核化目標に「朝鮮半島の」の文言を付ける
シンガポール首脳会談でも、北朝鮮は一方的な核放棄を回避する措置を取っている。非核化という目標に「朝鮮半島の」という文言を付け「朝鮮半島の非核化」という目標にしたのだ。「朝鮮半島の」としたことで、北朝鮮側からすれば「米軍の北朝鮮への核戦力」も含むと無理やり拡大解釈できる余地を残した。もちろん米国側からすれば「在韓米軍に核戦力は配備していないので、朝鮮半島の非核化とは北朝鮮の非核化だ」ということになるが、北朝鮮側の意図としては、とにかくそこを曖昧にしたいということだろう。 この時の首脳会談での共同声明では、単に非核化に向けて努力することが合意されただけだが、翌日、北朝鮮メディアは次のように報じている。 「(両首脳は)段階別、同時行動原則を順守することが重要であることについて認識を共にした」 つまり、一方的な核放棄ではなく、交渉によって少しずつ両方が歩み寄ることが約束された、と北朝鮮は言っているわけだ。これは、北朝鮮が非核化という非現実的な話よりも、北朝鮮の核武装を前提に、米国と「軍備管理」交渉の形式に持っていきたいという意思の表れだろう。 実際その後、豊渓里(プンゲリ)の核実験場の坑道の一部を破壊してみせただけで、北朝鮮は実質的な非核化措置を一切拒否している。北朝鮮側の言い分は、非核化交渉が進まないのは「約束を守らない米国のせい」となる。北朝鮮のこれまでの言動は、その言い分のための布石と考えるべきだろう。
「計画通り」核戦力を着々と増強する北朝鮮
そんな北朝鮮の立場を応援しているのが、中国とロシアだ。両国とも米国の影響力をそぐのが目的である。そして、中ロ両国は北朝鮮を経済的にも支援している。 韓国と米国は北朝鮮の軍事的脅威を警戒してはいるが、両国のトップである文在寅(ムン・ジェイン)大統領とトランプ大統領は北朝鮮の懐柔路線に拘泥しており、すっかり金正恩委員長の術中に嵌(はま)っている。 北朝鮮はそうした状況を利用し、さまざまな新型ミサイルの開発を進めている。ウラン濃縮による核爆弾の量産も間違いなく進めており、さらに実験こそ自重しているものの核爆弾の改良も進めているはずだ。つまり、核戦力を着々と強化しているのだ。 こうして北朝鮮が設定した年末期限が過ぎれば、北朝鮮は「米国のせい」にして新たな行動を起こす。すべて北朝鮮の計画通りだろう。
-------------------------------- ■黒井文太郎(くろい・ぶんたろう) 1963年生まれ。月刊『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長等を経て軍事ジャーナリスト。著書・編書に『イスラム国の正体』(KKベストセラーズ)『イスラムのテロリスト』『日本の情報機関』『北朝鮮に備える軍事学』(いずれも講談社)『アルカイダの全貌』(三修社)『ビンラディン抹殺指令』(洋泉社)などがある