最初から「非核化」する気はなかった北朝鮮 膠着する米国との協議
「一方的な核放棄」約束しないよう細心の注意
ただ、明確に断言できることもある。北朝鮮は「非核化」する意志などないということだ。
北朝鮮は2018年6月にシンガポールで初の米朝首脳会談を行い、非核化に向けて交渉していくことでアメリカと合意した。しかし、2019年2月にベトナム・ハノイで行われた2回目の首脳会談では、北朝鮮が「寧辺(ニョンビョン)の核施設放棄と引き換えに経済制裁の大幅解除」を主張したが、米国は「経済制裁解除と引き換えに他のウラン濃縮施設放棄」を主張して決裂した。 その後、北朝鮮は「合意に反して一方的に核放棄を迫る米国」を非難し、自分たちからの妥協を拒否。冒頭で書いたように「年末」期限で米国に妥協を迫った。 こうした北朝鮮の態度に対して「北朝鮮はシンガポール首脳会談で非核化に合意したのに、約束を守らない」と非難する声もあるが、北朝鮮側の理屈では、それは当たらない。非道な独裁体制で、しかも危険な核武装に邁進する北朝鮮を擁護するつもりなど筆者には微塵もないが、北朝鮮側は確かに、最初から核放棄する約束などしていない。北朝鮮はシンガポール首脳会談の時から一貫して「一方的な核放棄は拒否する」ことを主張しており、一方的な核放棄を約束しないように言動に注意してきたのだ。 つまり、北朝鮮側の理屈では、彼らは嘘などついていないし、逆に約束を守っていないのは米国側だという話になる。これは当然、北朝鮮側としては計算のうちだ。つまり、北朝鮮が最初から非核化する気がないことは、その言動から十分に予測できたのだ。
北朝鮮の安全保障に非核化という選択肢はない
まず、シンガポール首脳会談以前に金正恩委員長が言ってきたことは「体制が保証され、軍事的脅威がなくなれば、核を保有する理由はない」(2018年3月5日、韓国政府訪朝団との会談で)である。これは裏返せば、体制が保証されず軍事的脅威があるうちは、北朝鮮は非核化しないということだ。 まず体制保証の話からみると、これを「体制保証されれば非核化する」と希望的観測で論じる説があるが、それは非現実的だろう。体制保証というのは、条約などの単なる紙の上での約束事では担保されない。国際政治がそんなタテマエで成り立つなら、とっくに核兵器は地上から消滅しているだろうし、ほとんどの国で軍隊がなくなっていてもおかしくない。 しかも、米国による北朝鮮への軍事的脅威は、なくなることはない。強力な米軍の戦力は、たとえ在韓米軍や在日米軍が撤退したとしても、核戦力を含めて残る。そうした状況で北朝鮮が求める体制保証とは、「米軍に対する抑止力として自らの核戦力を確保した上での、米朝の対等な交渉で合意する体制保証」しかあり得ない。北朝鮮の安全保障にとって、非核化の選択肢はない。