最初から「非核化」する気はなかった北朝鮮 膠着する米国との協議
「年末まで待つ」――。膠着状態に陥っている米朝協議に関し、北朝鮮が米国に対して、一方的に突きつけた“期限”が近づいています。2019年5月以降、再び短距離弾道ミサイルの発射を繰り返している北朝鮮ですが、12月に入って発言のトーンを強めています。年が明けた2020年1月1日には、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長による「新年の辞」が注目されます。米朝の非核化協議について、軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は「北朝鮮は非核化する意志はなかった」と指摘します。黒井氏に寄稿してもらいました。 【写真】「完全な非核化」「CVID」実現にはどんなプロセスが必要か?
「米国のせいで」ICBM発射を正当化する布石着々
北朝鮮と米国の緊張が高まっている。2019年4月に金正恩委員長が最高人民会議で米国に妥協を求め、「年末までは忍耐心を持って米国の勇断を待つ」と発言したが、その期限が迫っているからだ。 もちろん米国が一方的な要求をのむことはないから、北朝鮮が何らかの行動を取ることが予想される。というより、米国がそんな一方的な要求をのむことはないことを当然、北朝鮮側も予想していただろうから、北朝鮮はそれを前提に新たな行動を予定していたとみるべきだろう。
その北朝鮮が取るだろう行動については、不明である。ICBM(大陸間弾道ミサイル)発射実験、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)発射実験、衛星打ち上げ、あるいは非核化交渉の破棄宣言など、さまざまな可能性が報じられているが、北朝鮮側は具体的に明言していない。 しかし、北朝鮮は12月に入り、さまざまな情報を発信している。 まず12月3日にはリ・テソン外務次官が「クリスマス・プレゼントに何を選ぶかは米国の決心次第だ」との談話を発表。同12日には外務省報道官の「年末の時限が刻々と近づく中、米国がわれわれに対する挑発の水位を高め続けている」と米国を非難し、自分たちのミサイル実験を「自衛的な武装近代化措置」「どの国も行っている兵器実験」だと正当化する談話を発表した。 また、12月7日及び同13日に新型の液体燃料ロケットのエンジン噴射試験と思われる実験を行い、同14日に朴正天(パク・ジョンチョン)総参謀長がその実験が米国を標的にした核戦力のためのものであることを明言。同22日には党中央軍事委員会が開催されたことを公表し、今後も軍事力強化を進めることを強調した。さらに30日の党中央委員会委員会総会の場で金正恩委員長が「国家の自主権と安全を徹底して保障するための積極的で攻撃的な措置」に言及。こうした一連の言動は、自分たちの核戦力強化の正当性を主張したといえる。 つまり北朝鮮は、「米国のせい」でICBMを撃つことを正当化する布石を着々と打ってきているので、この流れで年明けに撃つ可能性は十分に考えられる。しかし、対外的に公約となるような明言は避けている。