忘れぬ懇願「僕らを見捨てないで」 中傷にも耐え38年…“騙されて”始まった監督人生
「神様から与えられた宿命」…誹謗中傷にも屈せず全身全霊で38年
藤川さんはメンバーの募集を再開した。東山クラブに全てを捧げる覚悟を決めた瞬間でもあった。 「先生になりたい夢を捨てて、大学生活での遊びもみんなの半分以下。周りが優良企業に就職する中、自分は1年間恥ずかしさに耐えながらフリーターまでしました。バブルが弾けて仕事を失い、ここで野球の監督を辞めたら自分には何も残らないと思いました。すごく悩みましたが、神様から与えられた宿命だととらえて、チームに全力を注ごうと決めました」 全身全霊で走り続けて、38年が経った。想定外の形で18歳から監督を務めた東山クラブは今、全国屈指の強豪になっている。チームが強くなり、有名になればなるほど妬みや嫉みは増える。事実無根の噂や誹謗中傷に心を痛め、「何で、ここまで言われて監督を続けなければいけないのか」と落ち込むこともあるという。 「私はほとんどお酒を飲めないのに、錦(名古屋の繁華街)で毎週豪遊しているとネットで書かれたり、デマが広がったりしています。セレクションをしていないのに夜のお店で接待しないとチームに入れない、月謝4000円なのに金儲けをしている、とも言われます。監督をしていると嫌なことの方が多いかもしれません」 監督を退けば、誹謗中傷にさらされることはなくなる。お金や時間の自由も手に入る。それでも、その選択肢はない。 「嫌なことを消し去ってくれるくらい、選手が感動させてくれるんです。だから、続けているのだと思います。そして何よりも、選手たちから必要とされていることがうれしいんです」 38年前、「見捨てないですよね」と選手たちに懇願された18歳の若き指揮官は、56歳の名将となった今も“原点”を忘れることはない。
間淳 / Jun Aida