【#佐藤優のシン世界地図探索70】イランの核兵器と弱くなったイスラエル軍の関係
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく! * * * ――前回の話では、イランは自国開発の核兵器がないため、いまはイスラエルと戦争したくないということでした。そのイランの核兵器はあとどのくらいで完成するのですか? 佐藤 それはわかりません。 ――今年2月にはイランは原爆3個分、121.5kgのウランを貯蔵していましたが、6.8kgほど減少したと報道されていました。核兵器に使用されるウランは濃縮度90%以上であります。 佐藤 イランは濃縮度60%を超えたウランを医療用だと言って生産しています。しかし、60%を越えるウランの生産体制や開発能力を持っていれば、90%を越えるのは時間の問題です。 ――ロシアの協力があれば早まりませんか? 佐藤 いえ、ロシアは核の拡散に関しては協力しないでしょう。 ――北朝鮮はどうですか? 佐藤 北も協力しないと思います。核開発に関しては「みな、自力でやりましょう」という話ですから。 ――すさまじい標語でありますね、「自力でやりましょう」。 佐藤 イランにはその開発能力がありますからね。 ――すると、イスラエルの情報機関「モサド」は、全力でイランの核科学者と技術者を暗殺しませんか? 佐藤 モサドの能力をもってしてもそれは無理です。だから、核開発は時間の問題で、イスラエルは核を持ったイランとの緊張の均衡を考えるでしょうね。 ――恐るべき恐怖の均衡! 佐藤 その前に現時点でイスラエルは、ガザでハマスに囚われているユダヤ人の人質50人を取り戻すことで頭が一杯です。イランの核開発については、それが終わってからです。 なぜなら、いまのイスラエルはそういった広い視野で物事を見られる状態ではないからです。まさにいま国家存亡の危機にあるわけですから。だから、人質をどうやって取り戻すか、そこに尽きると思います。 ――先日、佐藤さんはイスラエルを訪れていました。帰りの飛行機には、日本へ観光に行くイスラエル人で満席だったいうではないですか。これは余裕の表れですか? 佐藤 みなさん普通に生活しているので、旅行に行きます。ただ、いまヨーロッパでは反ユダヤ主義の機運が高まっているので、観光旅行に行っても不愉快になるだけなので行きません。その分が日本に流れて来ているだけです。 ――イスラエルにいるユダヤ人の若者はどのタイミングで海外旅行に行くのですか? 佐藤 軍隊に行ったあとに1~2年旅行して、それから大学に行きます。 ――なるほど。 佐藤 海外にいる二重国籍のユダヤ人がいま、帰国して「戦闘に従事したい」と言っています。なので、戦闘員の数は全然、不足してないんですよ。 ――しかし、佐藤さんのイスラエルレポートでは、『イスラエル軍が弱くなっている。理由は、数年経つと資格を取って軍を辞め、民間企業に行くからだ』とありました。この状況は、第四次中東戦争の頃のイスラエル軍と全く違うのですか? 佐藤 皆、違うと言っています。なぜなら「軍を強くする術がない」からです。 要するに、新自由主義が進み、同時にハイテクが進化しました。そして、ハイテク部隊の精鋭たちが、どんどん民間企業に引き抜かれて転職しています。民間企業の給与は、軍隊の2~3倍なのはざらで、10倍ということもあります。「愛国心のために軍に留まってくれ」と懇願されますが、皆、生活の問題がありますからね。 ――無人兵器とAIで代替はできませんか?