「タイトルと無縁の競輪人生でも、不思議ではなかった」平原康多の苦境からの復活劇を、帝王・山田裕仁氏が徹底解説!
吉田選手が先頭の関東ラインを完全に抜け出し、その直後に内から小林選手、諸橋選手、岩本選手の3車が並ぶ態勢で、最終3コーナーへ。古性選手と清水選手は、ここでもまだ動けずに後方のままです。最終2センター手前で、諸橋選手が最内のコースを抜けて武藤選手の内に潜りこみますが、それを察知した武藤選手がこれをしっかりとブロック。吉田選手と平原選手が抜け出した態勢で、最終2センターを回りました。 後方の古性選手は一気に進路を外にきって、捲り不発に終わった山口選手の前にシフト。そして直線を向いたところで、吉田選手の番手から平原選手が外に出して、前を差しにいきます。その後ろから前を追うのは岩本選手で、諸橋選手のブロックから戻った武藤選手も、外に出して追いすがります。ここで吉田選手の脚が鈍り、差した平原選手が単独先頭に。後方からは、古性選手が鋭く伸びてきました。 イエローライン付近を伸びた岩本選手が前に迫り、後方から一気に差を詰めてきた古性選手も強襲しますが…先頭で力強くゴールラインを駆け抜けたのは、絶好の展開をモノにした平原選手。ずっと夢見てきたであろうダービー王の称号を、ここでついに手にしました。2着は岩本選手で、3着は後方から猛追した古性選手。平原選手の優勝をアシストした吉田選手は4着、武藤選手は5着に入っています。
これはもう“人徳”としか言いようがない
古性選手が前を斬りにきたときに抵抗して、けっこう脚を削られていたはずの吉田選手。にもかかわらず、最高のタイミングでカマシて主導権を奪いきり、最後の最後まで粘るという非常に強い走りをみせましたね。そして作りあげた最高の展開で、バトンを受け取った平原選手が最高の結果へとつなげてみせた。武藤選手も3番手の仕事をキッチリやって、平原選手の優勝を手助けした。文句なしに、この「ラインの勝利」です。 3年ぶり9回目のタイトル制覇で、年末のグランプリ出走とS級S班復帰を決めた平原選手。怪我の影響で本当に苦しい時期が続いていただけに、この優勝は心の底から嬉しかったでしょうね。「関東のプリンス」も41歳ですから、当然ながら年齢からくる衰えはあるし、怪我からの回復にも時間がかかる。力を戻せないまま、もうタイトルとは無縁の競輪人生を歩むことになっていたとしても、なんの不思議もないんですよ。 でも、彼は見事に復活を果たした。なぜそれが叶ったかといえば、これはもう“人徳”としか言いようがないでしょう。これまで積み上げてきたものによって、関東の多くの選手が「平原さんのために」と考え、慕っている。今回の吉田選手がみせた力強い走りも、そういった気持ちが前面に出ていたと思います。強烈な個の力にも、ラインの結束によって対抗できるし、勝つことができる。それを改めて感じさせられました。