「タイトルと無縁の競輪人生でも、不思議ではなかった」平原康多の苦境からの復活劇を、帝王・山田裕仁氏が徹底解説!
5名が勝ち上がった関東勢は、一致団結しての連係ではなく、別線を選択しました。吉田拓矢選手(107期=茨城・28歳)が先頭のラインには、埼玉勢の平原康多選手(87期=埼玉・41歳)と武藤龍生選手(98期=埼玉・33歳)がつきます。もうひとつの関東勢は小林選手が先頭で、番手に諸橋愛選手(79期=新潟・46歳)という組み合わせ。どちらも、「仲間」と戦えるという有利さがあるのは言うまでもありません。 S級S班の3名と、3連勝で勝ち上がった岩本選手は単騎勝負。機動力上位でデキも絶好である古性選手と清水選手が単騎となってしまったのが、本当に惜しいというか、もったいないというか…。いわば「ラインで戦う関東が勝つか、S級S班が個の力でそれを凌駕するか」といった構図。そして多くのファンは、後者を支持したんですよね。2車単での1番人気は、③清水選手→①古性選手という買い目でした。 ただし、古性選手や清水選手にとって、ここはどう立ち回るかが非常に難しい。「選択肢」という名のカードがほとんど手持ちにない状況での戦いとなるわけで、しかも車番的に、S級S班の三名が中団で並びそうなんですよね。先に動けば、その仕掛けに乗った選手に差されてしまう可能性が高い。別線を選んだ関東勢にもやりづらさはあるでしょうが、単騎勢の抱える難しさは、その比ではなかったと思いますよ。
7番車の武藤選手が好スタート、関東勢が前受け
展開は間違いなく関東勢が有利ですが、古性選手や清水選手ならば、それでもなんとかしてくれると期待したいところ。それでは、今年のダービー決勝戦の回顧に入りましょう。レース開始を告げる号砲が鳴って、いい飛び出しをみせたのは7番車の武藤選手。1番車の古性選手も位置を取りにいきますが、ここは武藤選手がスタートを取って、吉田選手が先頭の関東勢が前受けとなります。 その直後4番手に古性選手がつけて、清水選手と山口選手がそれに続きます。小林選手が先頭の関東勢は7番手からで、最後方に単騎の岩本選手というのが、初手の並びです。これはレース前に想定された通りで、前受けも後ろ攻めも関東勢ですから、この両者が主導権を巡って、前でもがき合うような展開はあり得ない。ではどうなるのか…というのが、この決勝戦の展開における“カギ”でした。 青板(残り3周)の後半から、後方にいた小林選手がゆっくりと浮上を開始。最後方の岩本選手はこれには連動せず、後方でじっと脚を温存します。小林選手は赤板(残り2周)通過に合わせて前を斬りにいきますが、それに先んじて中団の古性選手が動いて、前を斬りにいきました。清水選手と山口選手は、古性選手の動きに続きます。先頭の吉田選手は素直には下げず、前に踏んで抵抗します。 ![](@3) 赤板後の1センターから2コーナーの区間で、今度は小林選手が外から古性選手を斬って先頭に。ここで、内の吉田選手は引いてポジションを下げます。いったんペースが落ち着き、中団の選手が互いの動向を探り合いながら、レースは打鐘を迎えます。打鐘後の2センターで隊列が定まり、まだそれほどペースが上がらないまま、一列棒状で最終ホームに帰ってきました。 先頭の小林選手が加速するかと思われた直前、後方から一気にカマシたのが吉田選手。岩本選手も今度は連動して、4車が前に襲いかかります。吉田選手は素晴らしいダッシュで前との差を詰めて、最終1コーナーで先頭の外に並ぶところまで進出。そのまま小林選手を叩いて、主導権を奪いにかかります。外から4車でフタをされるカタチとなった古性選手や清水選手は、動きたくとも動けません。 最終2コーナーを回ったところで吉田選手と平原選手までが前に出切って、叩かれた小林選手は万事休す。そして、S級S班の3名は内に詰まって身動きが取れず、後方に置かれるという展開になってしまいました。最終バック手前で小林選手の脚が鈍ったのを察した諸橋選手は、切り替えて武藤選手の後ろを狙いに。最後方となった山口選手はここで仕掛けますが、一気に前との差を詰められるような勢いはありません。