[平成の名車] トヨタ クラウンエステート(初代):旧き佳き時代のワゴンの良さを継承
直6エンジンを搭載する最後の世代のクラウン
セダン同様にアスリート系をグレード構成の軸に置いているが、長いリアオーバーハングや荷室部にボリューム感を持たせたキャビンデザインなど、ワゴンのセオリーに則ったパッケージングを採用。クラウンとしてもワゴンとしても伝統的といえる、リアショートオーバーハングでクーペ的に纏めた最新のクラウンとは違った風格がある。 もうひとつの注目点はパワートレーンで、11代目は最後の世代となる直6クラウンでもある。高精度な回転体が高速で回っているような重質なエンジンフィールは、まさに往年のクラウンの雰囲気、伝統モデル「クラウン」の格を感じさせてくれる。 じつはゼロクラウンからのV6エンジンも、直6的な素直なエンジンフィールを示すが、重質な味わいという面では11代目に分がある。もちろん、変速制御やATの多段化などパワートレーン全体の性能評価ではゼロクラウンには及ばないのだが、悠々とドライブを愉しむためにクラウンを選んだユーザーにとって、かなり魅力的な味付けだった。 そしてアスリート系でありながらサスチューンは穏やか。高速ツーリングや山岳路走行を安心してこなしながらも、クラウンらしさを失っていない。このあたりはロイヤル系でもアスリート的な引き締まったアシだったゼロクラウンとは違う。当時、大ブームだったスポーツワゴン市場を狙った走りではなかった。
プレミアムとゆとり十分のキャビン設計、まさに〝高級ワゴン〟
現代のワゴンの多くは、昔ならショートワゴンに分類されるが、それらに比べるとクラウンエステートはリヤセクションが長めで、それが重々しく思える。ただ実用性はスペース効率の面で高い室内高を活かしてキャビンボリュームを稼ぐ、横置きプラットフォームベースのSUVに及ばない。まもなく登場する次期クラウンエステートとはまったく異なる思想で造られたモデルだ。 だが、そこには現代の高級車とは違った雰囲気がいっぱいで、唯一無二と思える魅力がある。まさに、旧き佳き時代のステーションワゴンという言葉がぴったりな1台だ。
────────── ●文:川島茂夫(月刊自家用車編集部) ※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
月刊自家用車編集部