劇中の竜巻観測テクノロジーが現実に…!多方面に影響をもたらした傑作『ツイスター』の功績
巨大竜巻と人類の戦いを描くパニックムービー『ツイスターズ』が8月1日より公開中だ。災害を描いた映画としては史上最大のヒットを記録し、文字通り、世界中で旋風を巻き起こしている。 【写真を見る】ド迫力の映像を生んだ技術など『ツイスター』の功績を振り返る! そんな本作のタイトルと内容を見て思いだされるのは、もちろん『ツイスター』(96)。同作は、これまで数多く製作されてきた竜巻映画のパイオニア的存在であり、様々な影響をもたらしてきたエポックメイキングな作品だ。ここではその功績を振り返っていきたい。 ■竜巻を追うストームチェイサーの生き様を活写 アメリカの南部を舞台に竜巻の動きを追うストームチェイサーたちの命懸けの姿を描いた『ツイスター』。当たり年と言われるほど竜巻が頻発するアメリカ南部、ストームチェイサーから気象予報士へと鞍替えしたビル(ビル・パクストン)は、離婚届にサインをもらうため、いまも竜巻を追う妻ジョー(ヘレン・ハント)のチームを訪れる。 そこで自分が発案した竜巻観測機ドロシーの完成を知らされたビルは、発生した巨大竜巻を追うジョーたちのチームに合流。ライバルチームとぶつかり合いながら最大級F5クラスの竜巻からデータを回収するため危険のなかに身を投じていく。 マイケル・クライトンとスティーヴン・スピルバーグの『ジュラシック・パーク』組が立ち上げたこの企画で、監督を委ねられたのがヤン・デ・ボン。製作費の問題から頓挫してしまったハリウッド版ゴジラへの未練が本作に込められていると言われても納得してしまう、竜巻をまるで怪獣かのように描いた迫力満点の映像は、当時観客の度肝を抜いた。 ■迫力満点の映像を実現したCGテクノロジー まだいまほどのCGが誕生していないにもかかわらず、当時の最先端の技術を駆使し、極限まで竜巻に近づく様子をリアルに描いている本作。ヤン・デ・ボンといえば撮影監督時代の『ロアーズ』(81)では、訓練されていない動物たちをカメラに収めるために大怪我を負い、初監督作『スピード』(94)ではキアヌ・リーブスにスタントをさせるなど、リアルかつダイナミックな映像を追求する本物志向の高い人物。 とはいえ突発的に発生する竜巻をカメラに収めるのは不可能であり、CGで描いた竜巻とロケ撮影された映像を合成する手法を本作では採用。手持ちカメラを多用した映像と風景の動きと竜巻のCGを合わせるという高難易度の仕事を実現してみせたのが、「スター・ウォーズ」などで知られるILM(インダストリアル・ライト&マジック)だ。 CGに関する便利な技術が現在ほど発達していない当時は、映像を合わせること(マッチムーブ)を専門の職人が作業を担っており、本作ではカメラトラッキング(映像内の対象物の動きからカメラの動きを検出すること)を駆使して対応している。 デ・ボン監督といえば縦横無尽に動き回る複雑で自由度の高い撮影が特徴的で、本作でも撮影監督のジャック・N・グリーンと共に臨場感のある映像を生みだしているが、それもすべてILMの尽力があったからこそ実現したのだ。 ■現実の世界にもたらした数々の影響とは? CGの可能性を広げたという点で後世に多大な影響を与えた『ツイスター』だが、その影響力はそれだけに止まらず、映画の公開後には、竜巻を追ってそのデータを収集したり、趣味で映像を撮るストームチェイサーが激増したという。主演のビル・パクストンが2017年に亡くなった際にはオクラホマのストームチェイサーたちが、GPSシグナルを駆使してレーダー上に「BP」と頭文字を映しだして追悼したことも話題となった。 さらに劇中に登場するドロシーという竜巻観測マシーン。これは竜巻のなかに無数の小さなセンサーを飛ばしてその動きで竜巻を丸裸にするという機械だが、カナダではこのドロシーにインスパイアされた雹の嵐を観測する技術が2023年に実現している。 実際の技術は、風船に取り付けた1つ24gの小型探査機を嵐のなかに放ち、探査機が本物の雹のように嵐のなかを動き、雹のたどる経路や成長条件を観測するというもの。このように現実にも様々な影響をもたらしていることから、『ツイスター』がいかに偉大な作品であるかがわかるはずだ。 『ツイスターズ』ではオクラホマ州を舞台に巨大竜巻の破壊に挑む人々の姿を描いており、実際の観測データに基づいて描かれた竜巻の猛威は圧巻。すべてCGで描くのではなく、水や風、氷を駆使したり、実際にクレーンでトレーラーを吊り上げたりと、リアルな撮影が行われているという。また物語の鍵を握る竜巻破壊計画の方法もどのようなものなのか?ぜひこの機に『ツイスター』と、約30年を経て作られた『ツイスターズ』を見比べてみては? 文/サンクレイオ翼