円安は政府と日銀による究極の国民イジメだった… 野党もメディアもなぜ声を上げないのか
消費税率が3%上がったのと同じダメージ
総務省によると、2023年の消費者物価の上昇率は3.1%で、1982年の第2次オイルショック以来の高い水準だった。生鮮食品を除く食料にかぎれば、上昇率は8.2%であった。日本の食料自給率は、G7のなかで圧倒的に低い38%で、残り62%は輸入に頼っている。また、大量のエネルギー消費国でありながら、エネルギー自給率は11.8%しかなく、88%以上を輸入に頼っている。 テレビのニュースで、「円安なので、肉は輸入品ではなく国産を買うようにしている」という消費者の声を流していたが、視聴者へのミスリードになると懸念する。国産牛も輸入された飼料をあたえ、温度管理のために莫大な電力を消費して飼育されており、円安になれば価格は高騰する。このように、日本は自国の通貨の下落が、ほかの国以上に消費者の生活を直撃する国なのである。 その結果が、昨年の消費者物価の3%を超える上昇率であり、4月29日には1ドル160円を超えたことを考えれば、今年は上昇率がさらに高まると予想される。物価が3%上昇すれれば消費者は、消費税率が一挙に3%上がるのと同じダメージを受ける。 円安のデメリットが理解されにくいのは、円安によって大企業を中心に利益が増えている企業が多いからだろう。2023年3月期、日本経済新聞社の調査によれば、4社に1社が純利益で過去最高を記録した。たとえば、総合商社などではそうした企業が相次ぎ、三菱商事や三井物産は純利益がはじめて1兆円を超えた。 むろん大企業にとっても、物価高による原価の上昇は避けられないが、大企業ほど売上高の増加額が原価の増加額を上回っている。すなわち、大企業は原価の増加分を売上げに転嫁し、消費者に負担させることで利益を得ている。消費税が3%も引き上げられ、それがそっくり企業への補助金に回されているのと、同じことが行われているのである。 また、いうまでもないが、中小零細企業の多くは、物価高による原価の増加分を売上げに転嫁することができず、苦境にあえいでいる。にもかかわらず、「中小企業、そして地方、農林水産業、介護、福祉、建設等様々な分野で幅広く賃上げを広げていかなければ」と軽々しく発信する岸田総理の無知と無責任には(確信的発言の可能性もあるが)、開いた口がふさがらない。 いまの円安が不可抗力によるものなら、静観も必要かもしれない。だが、原因は日米の金利差にあるとわかっている。日銀が金利を上げれば円安は解消されるのに、それを怠っているから円安が進んでいるのであり、それは政策的に誘導された結果である。 自民党派閥の裏金問題を小さな問題だというつもりはないが、金額にすれば数億円の話である。ところが、野党も、メディアも、有権者も、裏金問題を根治しなければ日本が沈むほどの勢いで批判する。あるいは、増税が議題に上がれば猛反発が起きる。ところが、国民が3%を超える負担増を強いられ、そのカネで大企業を助けるという究極の国民イジメが行われても、野党もメディアもなんら声を上げない日本。この国が公民ともに機能していないという絶望感が深まるほかない。