効果ある?教員に11時間の「勤務間インターバル」導入、「学校にはなじまない」という人に足りない視点 原則と実態が乖離する中、最低限の仕組み必要
働く人の健康確保を目的とした施策「勤務間インターバル」をご存じだろうか。仕事が終わってから翌日の始業までの間に一定の間隔を設けることで、睡眠時間など十分な休息を確保しようという制度だ。2019年4月から民間企業では事業主の努力義務となっているが、その「勤務間インターバル」の学校への導入が、中教審の施策としてつい最近盛り込まれた。教育研究家の妹尾昌俊氏は、「できない」「学校にはなじまない」とならずに、教員と子どもたちの健康、安心を守ることの重大性も考えて前向きに検討してほしいと話す。 【図で見る】一目でわかる「勤務間インターバル」とは? 8月27日に文科省の中央教育審議会(中教審)で、質の高い教師の確保のための総合的な方策についての答申が出た※。 かなり幅広い内容を含むのだが、新聞やテレビ、ネットなどのほとんどの報道は、公立学校教員に残業代を出さない特例法(給特法)を維持することと、教職調整額を現行の4%から10%以上に引き上げる提案であることが中心だった。私がヒアリングした限り、報道の影響もあってか、多くの校長や教員という当事者たちの認識も、そうした処遇の話に偏っていた。 確かに、残業代を出すべきかどうかや給与水準は、人材確保や現役の教員の職務満足、モチベーション、時間外勤務の状況などに影響しうる重要問題ではある。だが、打ち手、施策はそれだけではない。 あまり注目されていないが、今回の答申にはとても重要な施策が盛り込まれている。それが「勤務間インターバル」の学校への導入だ。 ※「令和の日本型学校教育」を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について(答申)
「勤務間インターバル」って何?
「またカタカナ語が出てきた」と嫌気をさす読者もいるかもしれないが、勤務間インターバルは、厚労省によると「終業時刻から次の始業時刻の間に、一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を設けること」を指す。 勤務間インターバルは、学校の先生にはあまりなじみがないかもしれないが、民間企業では、法律で2019年4月より事業主の努力義務となっている(国家公務員や地方公務員は適用除外)。 例えば、8時から17時までが労働時間の事業所で、23時まで残業した日の場合、11時間のインターバルを設けるため、翌日の始業時刻を10時に繰り下げるといった運用がある。インターバルの時間は11時間と決まっているわけではなく、事業者によってさまざまだ。 公立学校でも導入事例はあり、例えば福岡市では、市役所全体が市長の宣言にもとづいて勤務間インターバルを導入したのに合わせて、2022年9月から11時間の勤務間インターバル制度を導入している。そのほかにも、私の関わるある県でも導入に向けた検討会やモデル事業を実施しているところもある。 福岡市立学校における勤務間インターバル制度の概要なお、国家公務員や地方公務員(教員以外)でも、勤務間インターバルを導入することが人事院規則改正などを受けて、促されている。今回の中教審答申では、以下のとおり、学校でも導入が必要という提案になっている。 教師が十分な生活時間や睡眠時間を確保し、心身ともにゆとりを持ち教育活動を行うことができるよう、教師の健康福祉を確保するため、11 時間を目安とする「勤務間インターバル」の取組を学校においても進めることが必要である。 その際、上限指針においては、「本来、業務の持ち帰りは行わないことが原則であり、上限時間を遵守することのみを目的として自宅等に持ち帰って業務を行う時間が増加することは、厳に避けなければならない」とあることから、「勤務間インターバル」の確保に取り組むに当たっても、同様の考え方で取り組まれる必要がある。 出所:「令和の日本型学校教育」を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について (答申)p.32 実は、審議のまとめ素案という4月段階の文科省案では、「『勤務間インターバル』の取り組みを学校においても進めることには大きな意義がある」という、やや控えめな表現だったのだが、その後の審議を経て「必要である」というものになった。