飲食界の名伯楽が二つ星「明寂」の次に手掛けるのは、若手実力派シェフの自由な発想力が光る次世代フレンチ
看板のないビルの扉を開けば広がる、非日常的美食空間
場所は広尾と西麻布のちょうど中間辺り。あの「CHIUnE」の跡地と言えば、思い当たるフーディの方も多いのではないだろうか。看板もないビルの扉を開け、書斎を思わせるウェイティングに通された瞬間から、非日常の時が刻まれる。更に地下へと導かれると一転、白を基調とした静謐な空間が現れる。
その秘密めいた雰囲気は、どこか香港の私房菜を思わせるよう。オープンキッチンの店内は、カウンターの8席のみ。料理は「おまかせコース」24,200円を用意。 ※2024年1月から、27,500円に改定
ディナーのスタートは、シェフのスペシャリテから
林シェフをはじめ、若いスタッフの爽やかな連携プレーを見ながらの臨場感あふれるディナーは、まず、香り豊かなコンソメからスタートする。
「川俣シャモ」を丸ごと用い、その旨みを抽出したスープが、言わば林シェフのスペシャリテ。今回の具はカブだが、秋に訪れた時は松茸と、中に入る素材は季節に合わせて変えていく予定なのだとか。
「カブの皮でカブのだしを取り、昆布だしをベースにしてとった軍鶏のコンソメと合わせて仕上げています」と林シェフ。淡い黄金色に純白のカブが浮かぶシンプルな一皿は、これから供されるコースを連想させるような清廉な味わいだ。
見た目は素朴でも、細やかな手間暇が舌に伝わるその一杯を飲み干した後、目の前に置かれたのは、一瞬デザート?と思わせる「セロリと林檎」。セロリのアイスにリンゴのソースを合わせた一品で、トッピングのジュニパーベリーの香りがアクセントになっている。雲丹を忍ばせたアオリイカに牛と鶏のだしジュレをかけた一品やフォアグラのフランに栗を合わせた旬の味が続いた後、意表を突かれたのは「金目鯛 マッシュルーム」だ。
アイディア力とフレンチの基礎力を感じさせる一皿
皮は、中華そのままの春巻きの皮だが、金目鯛には自家製ラルドを巻き、マッシュルームのデュクセルと共に巻き込んである。更に、2片あるうちの1片には、後から甲殻類と赤ワインのソースをかける演出も心憎い。デュクセルのコクとラルドが金目鯛の味わいに深みを増し、ソースと合わさることで、見た目は中華のようでも味わいはフレンチにきちんと着地している。