飲食界の名伯楽が二つ星「明寂」の次に手掛けるのは、若手実力派シェフの自由な発想力が光る次世代フレンチ
この後に続く、殻のだしを使った香箱蟹のリゾーニ、たっぷりのわさびの葉と鰻をわさびマヨネーズでいただくそば粉のガレット、バターソースを添えた甘鯛の松笠焼き等々、いずれの料理も、フレンチの枠にとらわれることのない自由な発想力を巡らせつつも、そこには、しっかりとしたフレンチの基礎力が根付いている。
メインは丁寧な火入れ&仕上げのひと手間を加えた鹿肉
メインは「蝦夷鹿」。低温調理で火を入れた後、仕上げに藁で炙るひと手間は、鹿の持つ赤身ならではの味わいである血の旨みを更に引き出すため。「寿司屋さんで鰹を藁で炙るのも、鰹の持ち味である血の旨みを風味として引き立てるためだと思うんです。それなら、鉄分の豊富な赤身肉の鹿も同じだと思ったんです」。そう熱心に語る林シェフ。そこには、“食材そのもののおいしさは何か、自分は食材の何を伝えたいのか”を、絶えず自問自答する自分がいる。
最後にわずかにとろみをつけた鰹だしと梅干しのソースをかけ、実山椒をのせてこの一皿は完成。和のようなフレンチのような不思議な食後感は、ジャンルを意識して食べることは、今の時代、もう無意味のようにも思わせる。
最後は36の層が見事なミルクレープが登場
〆の食事は、秋刀魚のスープで炊いた秋刀魚ご飯。そして、柿のデザートでフィニッシュと思いきや、最後に「ミルクレープ」が登場。これが素晴らしい。36層ものクレープ生地を重ねたその層も見事なら、間に挟んだディプロマットクリームがまた美味。
カスタードと生クリームを混ぜ合わせたクリームだそうで、軽すぎず重すぎずのクリームがクレープ生地のもちもちとした食感とベストマッチ。フォークがスーツと入る軟らかさといい、すべてがベストバランス。まさにコースの掉尾を飾る定番デザートと言ってもいいだろう。
料理に合わせてワインも盤石の品ぞろえ。林料理の優しい味わいに合わせ、とりわけ充実しているのはシャンパン。グラスワインとしても提供しているアンリオのブランドブラン(グラス2,500円)をはじめ、リストには載っていないものも含めると、ざっと70種ほどがそろう。その他、グラスワイン各種やペアリング(5グラス)18,000円もある。
白寧
住所 : 東京都港区西麻布4-9-11 TEL : 050-5600-9937 ※価格はすべて税込、サービス料(10%)別
撮影:佐藤潮 文:森脇慶子、食べログマガジン編集部