「日本の常識」は発達障害の子にとってツライもの。過剰適応が起こりやすい今の社会の仕組み
自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)、学習障害(LD)などの「発達障害」では、先天的に脳機能の発達にアンバランスさがあり、他者とのコミュニケーションなどに支障が出るケースがあります。もし自分の子が発達障害かもと思ったら、親には何ができるのでしょうか? 【画像】知らない方が幸せだった?「私、ADHDかも」 『マンガでわかる 発達障害の子どもたち』(SBクリエイティブ刊)の著者であり、臨床経験30年以上の児童精神科医の本田秀夫先生に、子どもの発達障害について解説いただくインタビュー連載(全3回)。初回となる本記事では、 ・子どもの発達に違和感があるとき、受診した方がいいか ・発達障害の「過剰適応」が起こる理由 などについてお聞きします。 お話をしてくださった方 本田 秀夫 先生 (信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授) ■子どもの発達に違和感が……受診する? しない? ―― 最初に、発達障害の診断について教えてください。 よく「生活に支障が出ている時に発達障害かどうかの診断を受けるといい」と言いますが、具体的にどの程度の「支障」が出たら受診するのがいいのでしょうか? 本田秀夫先生(以下、本田) 受診のタイミングの一つは、医療や福祉制度が必要だと思う時でしょうね。 ――そうすると「うちの子なんとなくほかの子と違うかな」というくらいの小さな違和感があるだけなら、まだ受診しなくてもいいということになるんでしょうか? 本田 私がもし親の立場だったら、小さな違和感があったら病院に行きます。早めに発達障害かどうかわかっていた方が絶対に楽ですから。 ――では、気になったら受診していいんですね。 本田 発達障害かどうかわかった方が保護者の方やお子さんの気持ちが落ち着くケースも多いので、診断を受けた方が絶対いいですよ。 たとえば左利きの人が、「親から『箸を右手に持て』って言われていたけれど、なんで自分はこんなに右手で上手く持てないんだろう?」って思った時に「左利きだからです」って言われたら、「あ、そうだったんだ!」って納得できますよね。それと同じです。 ・診断されないことでつらさを感じるのは子ども自身 ――「うちの子が発達障害かどうか知りたくない」という保護者もいるようです。発達障害かどうかの診断を受けるデメリットはありますか? 本田 僕から見ると診断を受けることはメリットしかないです。 診断されることにデメリットを感じる人もいるかもしれませんが、それは発達障害と診断されることを「恥ずかしい」と感じたり、「劣っている」と錯覚する人だと思います。 でも、さっきの右利き・左利きの話でいえば、子どもが左利きとわかったとしても、ただの利き手の違いで、プラスでもマイナスでもないですよね。発達障害の診断も同じで、少数派だとわかるだけなんです。 診断を受けるかどうかは医療者側では干渉できないことですから、自由にしていただいていいのですが、発達障害が原因で生活に支障が出たら、つらいのはお子さん本人ですし、周りもどう対応したらいいかわからないですよね。 発達障害であれば医療や福祉などの支援対象にもなります。でもそれは強制ではなく、「発達障害だとわかればそれでいい」と思うなら、診断を受けた後に医療や福祉を利用しなくてもいいんですよ。 ■発達障害の「過剰適応」が起こるのはなぜ? ―― 発達障害の子に時々見られる「過剰適応」についても教えてください。 発達障害の子の場合、過剰適応は女性の方が起こしやすい、と聞いたことがありますが、本当でしょうか? ※過剰適応とは:他者からの要求や期待などの自分が置かれた環境に、自らの考え方や行動を合わせようとして無理しすぎること 本田 当初は女性の方が過剰適応しやすいと考える研究者がいましたが、近年では男性でも過剰適応する人は多いと考えられています。 ・過剰適応が起こりやすい、今の社会の仕組み 本田 女の子は小さい頃に異常行動が目立ちにくいから我慢してそう、とみんなが感じているんだと思います。でも、たとえば走り回りたい男の子を、周りの人が走らないように促している場合は、男の子を過剰適応させているかもしれないですよね。 お子さんが何かを我慢し続けているなら、性別に関係なく過剰適応をしているのかもしれないのです。 今の社会は「発達障害ではない人たち」が生活しやすい仕組みになっています。一方、発達障害の特性がある人はマイノリティだから、今の社会の仕組みの中では生きづらくなる。いつも自分にフィットしない枠組に押し込まれ、枠組に入らないと「自分は人として失格だ」と錯覚させられながら過ごす――だから、ほぼすべての発達障害の人は過剰適応させられてると考えるべきだと思ってます。 ―― では、発達障害の人が過剰適応するのは、今の社会で生きるためには仕方がないことなんでしょうか? 本田 全然そんなことはないです。社会の作りが合っていないから、発達障害の人が過剰適応を起こしてしまう、ということです。 ―― 発達障害の子が過剰適応を起こさないために、保護者や学校でできることはありますか? 本田 社会自体に問題があるのだから、親や学校の先生がちょっと気を配るだけでは完全には防げないでしょう。でも、少なくとも家庭や学校という「小さな社会」は、親御さんや先生たちの意識によってある程度変えられます。 実際に、発達障害のある子がそれほど過剰適応を起こさないで学校に楽しく通えることだってあります。それは先生・保護者の気持ちの持ち方や工夫が大きいのだと思います。 ■「日本の常識」は、発達障害の子にとってツライもの ―― 発達障害の子が過剰適応を起こさないために、親や周囲の大人が基本的に心がけるといいこと、考え方はどういうものでしょうか? 本田 日本限定であれば、子どもに「日本の常識」を無理に押し付けないことですね。たとえば「絆を大事に」「挨拶は基本」「姿勢のいい人は心も綺麗」とかです。 ――「みんな仲良く」もそうでしょうか。 本田 そうですそうです。 「1人でやるよりもみんな一緒にやるのがいい」ってよく言いますし、そういう人もいると思います。でも全てのケースがそうとは限りませんよね。 発達障害の人は、どちらかというと個人主義とか民主主義の方がフィットするんですね。これは反社会的になるということではありません。個人主義者も、自分を大事にするだけじゃなくて、他人をちゃんと尊重できますから。 ―― 自分を殺して、集団に絶対的に従うのがダメなんですね。 本田 日本の社会では、「社会を優先しよう」「わがままを言わず社会に尽くすべき」って考え方が強いですからね。そういう考え方は発達障害の人にはあんまり合わないんです。 それに、「みんなで団結して絆を作って頑張ろう」というようなこと押し出しているコミュニティでは、団結を乱す人を敵視して排除しがちです。 発達障害がある人っていうのは、友だちの中にいてもちょっと浮いてしまう存在になりやすいものです。でも、多少毛色の変わった人たちがいたり、そういう人たちがみんなの中に混ざっていたりしても、自然と受け入れられる社会を作っていかなければなりませんね。 (解説:本田秀夫、取材・文:大崎典子)
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