「いじめ防止法」改正の署名活動する遺族の思い、被害者を追い詰める学校の対応に罰則規定を
学校の教職員や県の担当者は業務時間に応対する。つまり、仕事の一部だ。学校側の弁護士も、報酬は学校法人から受け取るだろう。手弁当を強いられる遺族との差は、あまりにも大きい。 ■二度と同じ苦労をしてほしくない 遺族は2022年11月、いじめ自殺をいまだに認めない学校側に対し、約3200万円の損害賠償などを求めて長崎地裁に提訴した。学校側は争う姿勢を示しており、現在も係争中だ。ただ、仮に勝っても経済的に報われるとは限らない。交通死亡事故などと異なり、いじめ事件は高額な賠償金を認められにくいからだ。
2011年に滋賀・大津市立中で起きたいじめ自殺の訴訟。被害生徒の両親は加害者らに計約7700万円を請求したが、最高裁の判決で確定したのは約400万円だった。殺人などの犯罪遺族には公的な給付金制度があり、弁護士による支援制度の創設も国会で議論されている。一方、いじめ被害は対象外だ。 さおりさんはこう語る。「訴訟の目的はお金ではなく、海星高校の態度は許されないと司法でハッキリさせること。ただ、被害者であるはずの私たちが、なぜここまで苦しまなければならないのか。いじめ自殺の遺族は社会的に孤立し、取り残されている」。
民事訴訟は終結まで年単位で時間を要する。途中で和解しなければ、最高裁までもつれ込む可能性も高い。さおりさんの苦闘は、まだまだ終わりが見えない。 海星高校はいじめ防止対策推進法に照らし、不適切とも取れる言動を繰り返してきた。同法34条は学校評価において、いじめの隠蔽を認めない。文科省策定の「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」でも、自殺の事実に関して嘘をつくと、被害者側の信頼を失いかねないと明記。「突然死」や「転校」の提案は明らかな違反だ。
8条が学校の責務と定めた、いじめの防止と早期発見への対策も不十分だった。25条には必要に応じて加害者を懲戒するとあるが、指導すらしなかった。28条は遺族への適切な情報提供を、ガイドラインはJSCへの給付申請の説明と手続きをそれぞれ求めるが、主体的には実施しなかった。 一方、学校側は過去の記者の取材に「遺族には誠心誠意対応してきた。第三者委の報告書はいじめ自殺の認定に至る証拠の提示や評価が不十分だ。内容を理解できないため、第三者委に説明を求めているが、拒否された」と説明している。
さおりさんは「悲しむ子供や、私たちみたいに苦労する家族を生み出したくない。海星のような学校が二度と現れないよう、いじめの法制度には罰則規定が必要だ。例えば、私学は億単位の補助金を国や自治体から受け取っている。違反時はこれをカットしてはどうか」と訴える。 集めた署名は、年内にも文部科学大臣や与野党などに提出する方針だ。
石川 陽一 :東洋経済 記者