「いじめ防止法」改正の署名活動する遺族の思い、被害者を追い詰める学校の対応に罰則規定を
「子供の権利を取引材料に使って許されるのか。私たちは見舞金が欲しいわけではなく、息子の死にきちんと向き合ってもらいたかっただけ。お金で口封じを試みてきたのは許せなかった」(さおりさん)。遺族側は弁護士を雇い、自力で書類をそろえて学校経由でJSCへ申請。2020年3月に2800万円の給付を受けた時は、勇斗くんの死から約3年が経過していた。 ■対応に疲弊する遺族 この間、遺族は対応に追われ続けていた。法律の条文や国の通知、過去のいじめ自殺の報道などを読み込んで理論武装。県職員や学校の教員と面会し、弁護士と打ち合わせ、マスコミの取材に応じる。さおりさんは会社員としてフルタイムで働きながら、これらをこなした。
さらに民事訴訟を決意したことで証拠資料の収集と作成も加わった。弁護士が裁判所へ提出する書面の元は、自分で用意しなければならない。県への情報開示請求を繰り返し、録音していた学校側との膨大なやり取りを一から書き起こした。 徹夜での作業も珍しくない。それでも時間が足りず、仕事の昼休みも使った。ただでさえ精神的に不安定な状況で、さおりさんは心身共に疲弊。鬱病と診断され、現在も睡眠薬が手放せない。体調を崩して入院し、手術を受けたこともある。
経済的な負担も大きい。毎月1回、精神科への通院は欠かせない。薬代を含めると、通算で数十万円を治療に費やしている。開示請求の手数料や資料のコピー代などもバカにならない。そして、弁護士費用も重くのしかかる。 死亡見舞金の給付申請や訴訟の着手金、証拠保全手続き……。交通費などの諸経費を合わせると、累計で600万円以上を支払った。福浦家は勇斗くんの災害給付金でこれらの費用を賄っている。 ただ、いじめ自殺を学校側が認めないほかの事案では、JSCが死亡見舞金を不支給とするケースもある。さおりさんは「わが子のために闘いたくても、経済的な理由で諦めざるを得ない人も中にはいるのではないか」と推測する。