東芝と理研が量子コンピュータ新素子を性能実証「100m走で9秒7台レベルの快挙」
東芝と理化学研究所(理研)は2024年11月22日、東芝が提案している超伝導量子コンピュータ向けの新たな素子「ダブルトランズモンカプラ」を実験的に実現することに成功し、量子計算で重要な役割を果たす2量子ビットゲートの忠実度において世界トップレベルの99.90%を達成したと発表した。99.90%以上を達成したのはこれまで世界でも10例程度で、「100m走で9秒7台レベルの快挙」(東芝 研究開発センター ナノ・材料フロンティア研究所 フロンティアリサーチラボラトリー シニアフェローの後藤隼人氏)だという。今後は、まだ世界で達成例のない、2量子ビットゲートの忠実度99.99%を目指した性能向上に取り組んだ上で、量子ビット数の大規模化を目指していく方針である。 【ダブルトランズモンカプラで接続した2量子ビットゲートの構造と実際に作り込んだ素子】 ダブルトランズモンカプラは、東芝が2022年9月の論文で提案した、超伝導量子コンピュータの性能向上の鍵を握る可変結合器の一種である。従来の可変結合器に比べ、不要な残留結合を小さく抑えられるとともに、高速かつ高精度な2量子ビットゲートを実現できることを理論上で確認していた。今回の発表では、理論上での検討にとどまっていたダブルトランズモンカプラについて、実際に高速かつ高精度な2量子ビットゲートを実現できることを実証した。 ダブルトランズモンカプラで2量子ビットゲートを構成する場合、超伝導量子ビットとしては構造が最もシンプルなジョセフソン接合とキャパシターから成る周波数固定トランズモン(以下、トランズモン)を用いる。3つのジョセフソン接合を含むループを持つダブルトランズモンカプラに、外部から磁束をかけて電流を制御することで、トランズモンを用いた2つの量子ビット間の結合の調整が可能になる。 今回行った素子の作製では、2つの量子ビットの形状、材料、プロセスを工夫することにより、トランズモン量子ビットとして世界トップクラスのコヒーレンス時間の長さを実現した。また、ダブルトランズモンカプラに印加する外部磁束を調整して、最大結合強度を80MHzまで大きくすることにより、コヒーレンス時間の2000分の1以下となる48nsという短いゲート操作時間を実現した。量子ビットの高性能化では、コヒーレンス時間はより長く、ゲート操作時間はより短いことが求められるという要件を満たしている。 さらに、今回の実験では、2つの量子ビットの周波数を4.314GHzと4.778GHzとし、離調(周波数差)を約460MHzと大きくした。離調を大きく取れば、片方の量子ビットへの操作が他方にエラーを引き起こすクロストークエラーを抑制できる一方で、2量子ビットゲート忠実度を低下させる要因になる可変結合器の残留結合が大きくなってしまう。従来の可変結合器では、残留結合を数十kHzまでしか抑えることができなかった。今回作製したダブルトランズモンカプラでは、外部磁束の適切な設定により結合強度の大きさを約6kHzまで抑えることができた。ダブルトランズモンカプラの理論上の検討では、残留結合を小さく抑えられることが特徴になっていたが、これを実証した。 そして、今回の実験では12時間という長時間の測定を行う中で、2量子ビットゲートの忠実度は常に高い値を保ち、平均で99.90%という世界トップレベルの性能を達成した。