日本の未来図かもしれない台湾映画「白衣蒼狗」 移民社会がもたらすもの
日本と同様に、労働力不足に直面する台湾は、東南アジアの労働者らが社会を支える。その労働者たちを取り巻く厳しい現実と社会のゆがみを真正面から描いた「白衣蒼狗(はくいそうく)」が、台湾で話題となった。11月の台湾最大の映画賞「第61回金馬奨」で7部門でノミネートされ、曽威量(チャン・ウェイリャン)監督と共同監督で妻の尹又巧(イン・ヨウチャオ)が新人監督賞を受賞。同月下旬には、「第25回東京フィルメックス」でも上映された。カンヌ国際映画祭ではカメラドール(新人監督賞)のスペシャルメンションを受けている。日本でも外国人労働者が置かれた劣悪な労働環境などが問題となる中、多くの視座を与えてくれる。曽監督に聞いた。 【写真】第61回金馬奨で新人監督賞を受賞した曽威量監督(右)と共同監督を務めた妻の尹又巧
労働力不足、嫁不足解消に東南アジアから受け入れ
台湾は人口約2340万人の多民族社会で、中国大陸から渡った漢人や客家(ハッカ)と呼ばれる人々や、先住民らが暮らす。1990年代になると、経済発展とともに東南アジアからの移民が増えた。女性の社会進出を背景に深刻化した農村部の「嫁不足」解消のため、ベトナムなどから結婚で女性たちが移住。高速道路など大型インフラ建設の労働力不足を補うため、インドネシアやベトナム、フィリピン、タイなどから労働者の受け入れが本格化した。 今では80万人以上とも言われる外国人労働者が工場や建設現場で働いたり、高齢者介護を担うため家庭に住み込みで働いたりしている。介護では病院への付き添いや食事、散歩など日常生活に寄り添う。台湾人に比べると低賃金といった待遇面の課題を抱えている。 一方、生活が苦しい家庭は、正規ルートで外国人を雇うのが難しい。このため「不法移民」と呼ばれる外国人労働者たちが、より安い賃金で仕事を請け負う。法律の外に置かれ、安全な労働環境が担保されず、危険と隣り合わせの環境にある。労働力を外国人に依存する現状は、日本もほとんど変わらない。技能実習制度では転職を原則認めておらず、失踪者が後を絶たないのは、職場での暴行やパワハラ、セクハラなど劣悪な労働環境に耐えきれなくなったのが一因とも言われる。失踪した外国人が闇に落ち、犯罪組織に巻き込まれるケースも少なくない。技能実習制度に代わり、今後は長く働ける仕組みとされる育成就労制度に切り替わるが、人権や安全な労働環境がしっかり守られる仕組みづくりは急務だ。