「取り調べ」はできても「摘発」はできない!? いまだ未摘発の『地面師詐欺事件』の犯人たちが使った「カラクリ」
「つまり取引の中心は…」
新橋の土地取引でいえば、そのC社は所有権を取得して2週間ほど経った6月22日に港区の不動産会社D社に土地を売却した。かと思うと、D社は同じ日付で西新宿の不動産管理会社E社に土地を売却している。そこからひと月後の7月21日にはD社がE社から土地を買い戻した。そして同時にD社がその日のうちにNTT都市開発に土地を譲り渡しているのである。 いま一度、所有権の移転を整理すると、ニセ高橋礼子→A→B→C→D→E→D→NTT都市開発という塩梅だ。先の初村が分析する。 「つまり取引の中心はD社の椙浦なのです。あとの会社は、知っていて半ば一蓮托生で取引に参加してひと儲けした地上げ仲間か、そこに誘われてあとから儲けようとしたが、事件とのかかわりは薄い、というパターンに分かれるでしょうね。いずれにせよ、そのなかでなりすましを仕立てている。それを誰が主導したか、そこがポイントでしょうね」 とどのつまり彼らの儲けの原資は、NTT都市開発の資金である。NTT側が被害者だ。仮に事件化すれば、NTT都市開発はニセ地主が売った土地に対し、12億円を投じて買ったことになる。本物の地主はすでにこの世を去っており、今のところ相続人も見あたらない。となれば、土地は国庫に返上されなければならないようにも思える。が、そのあたりの処理は微妙なのだという。NTT側はあくまで契約上D社から不動産を購入しており、そこに瑕疵がないからだ。地面師詐欺の舞台となった物件のなかには、こうした矛盾を抱えたまま知らぬ間に再開発されたところもある。 新橋の地面師詐欺はいまだ犯人を摘発できていない。実はなりすまし役と目された秋葉紘子は愛宕警察から何度も取り調べられているという。だが、偽造パスポートには彼女とは別の写真が貼ってあった。つまりなりすまし役が2人いることになる。そのせいで警察の捜査は混乱した。半面、犯行グループにとってはそれがもっけの幸いとなった。 その秋葉は積水ハウス事件だけでなく、大手ホテルチェーン、アパグループが引っかかった赤坂の地面師詐欺でも逮捕されている。 『「偽造書類は見破りようがない!?」...《不動産取引のプロ》であるデベロッパーでさえ騙されてしまう地面師たちの巧妙な「手口」』へ続く
森 功(ジャーナリスト)