「本質をちゃんと伝えたい」快進撃を続ける横浜FCユース監督・和田拓三氏の、ニアゾーンのとり方と育成年代への注意点とは
<テーマ5>育成年代における注意点
|何のために使うのかという本質をちゃんと伝えたい ―和田監督はサイドバックの選手でしたが、当時と今では、ニアゾーンについての考え方は変わりましたか? 和田 現役時代を振り返ると、やっていること自体は、今も当時も変わりません。東京ヴェルディ時代に、ボランチの福西崇史さんからパスをもらって、中に切れ込んで、ニアゾーンから点を取ったことがあるのですが、それは、相手が嫌がることを考えての判断でした。 今はそういうことが言語化されて、サッカーを俯瞰的に考えられるようになりましたし、自分たちがこういうプレーを起こすから、相手がこう変化していくんだということがわかるようになってきました。サッカーのイメージがかなり具体的になってきたところが、自分の現役時代と違うところかなと思います。 ―選手にとっては、明確な言語化によって、イメージが共有されるのは、ポジティブなことだと思います。 和田 かなりポジティブだと思いますが、自分が気をつけているのは、選手の考える力を奪わないようにすることです。これは、育成年代で特に注意しなければいけない部分。いろいろなことを理論的に与えすぎると、選手の判断が問われる際に、自分で考えられなくなってしまいます。ですから、そこのバランスを意識しています。 一方で、指導者としては、選手に対して、選択肢を多く持たせてあげる作業も大事です。選手が選択肢を5しか持っていないのであれば、こちらが10とか20の選択肢を与えれば、そこの積み上げが、選手の考えになっていくはずです。選択肢を与えてもできないのであれば、選択肢をもっと多くすることを考えます。 ―用語がはっきりとあると、選手にイメージが入りすぎてしまうかもしれません。 和田 そうですね。言葉があると、共有しやすくはなりますが、ニアゾーンを何のために使うのかという本質をちゃんと伝えたいと考えます。なぜ、この場所がそう呼ばれているのか、なぜ、そこをとりに行きたいのかというところを理解してほしいです。 それと、チームが変わると、同じ用語にしても、使い方が変わることがあるので、そこをちゃんとわかっていなければいけません。そうじゃないと、選手は困ると思います。その用語に対して、選手が勝手に判断するようになって、とりあえず、ニアゾーンに行けば良いんでしょといったマインドになるのも違うかなと思います。メリットとデメリットの両面があるので、自分は、用語をあまり多く使わないようにしています。 今の時代は、情報が多いので、自分としては、サッカーのいろいろな面を学びながら指導することができていると感じます。そのフィードバックに対して、選手が反応してくれますし、サッカーの理解が進んでいくのが楽しいです。(終) 指導者PROFILE 和田拓三(わだ・たくみ) 1981年10月20日生まれ、静岡県出身。浜名高校から日本大学に進み、2004年に清水エスパルスに加入した。サイドバックとして活躍し、横浜FCなどでもプレー。12年に、アビスパ福岡で現役から退いた。13年から横浜FCを指導。22年と23年はジュニアユースの監督を、24年はユースの監督を務め、今季は高円宮杯U-18サッカープレミアリーグEASTで、優勝争いを演じている( 11月24日時点)。日本サッカー協会公認A級コーチライセンスを持つ
サッカークリニック編集部