第1次トランプ政権、米朝戦争に備えた極秘計画が明らかに
北朝鮮に関しては「あらゆる選択肢が検討されていた
ローリングストーン誌はCIAに詳細な質問リストを送ったが、CIAはコメントを拒否した。国防省にも質問をなげたが、CIAに問い合わせよと言われた。 CIAの北朝鮮計画は、今まで報じられてこなかった「探索プログラム」という壮大な計画とセットになっていた。CIAのSAC上級職員が統括したこのプログラムはオバマ政権の終盤に発足した。元職員の記憶では、戦闘地域外も含め、CIA全体で最新テクノロジーを駆使した軍事能力の集約方法を模索することが目的のひとつだったという。 だがトランプ政権が最大の圧力をかける政策を推し進めたため、北朝鮮政府に一泡吹かせることが探索プログラム、ひいてはCIA準軍事部門全体の主要目的になった。総合計画という名目だったが、最悪の事態に備えた対北朝鮮計画に力点が置かれていたことは「秀才でなくても分かる」と元CIA契約社員は語った。 元CIA職員によると、探索プログラムの戦争計画には平壌行きの禁制品を運ぶ船を妨害するという攻撃的な案が新たに加えられていた。当時の北朝鮮経済は、石炭や海産物といった主要輸出品に各国から制裁をかけられ、困窮していた。 妨害工作は最高司令官からの命令だった。トランプ氏は「おそらく、北朝鮮に対して昔ながらの手を使うべきだ」と考えていた、と元CIA高官は振り返る。 実際にCIAが北朝鮮船舶にどの程度妨害工作を実行していたのかは定かではない。「万が一に備えて、少なくとも訓練はしておこう」という考えだったと元CIA高官は振り返る(ポンペイオ氏は著書『Never Give an Inch』の中で、CIA長官在任中にシリアや他の国々におけるCIA準軍事部門の『交戦ルール』を改変したと、言葉少ながらも自慢している)。 北朝鮮に最大の圧力をかけるというトランプ政権の全体政策において、妨害工作案はささやかながらも中核を成していた。別の元CIA高官によると、対外的には外交面・財政面でアメリカの力を見せつけ、裏では諜報機関を中心に隠密行動をとる、という案もあったそうだ。 北朝鮮に関しては「あらゆる選択肢が検討されていた」と、その元CIA高官は語った。「中には我々の目にも、『おいおい、これはかなりヤバイぞ』というものもあった」。妨害工作は対北朝鮮対策の「全体の5%」だったが、最大の圧力をかけるという大局の重要なポイントだったと元CIA高官は語った。 「すべては我々の任務(の一部)だった――石炭船を停めるには、いくらでもいろんなやり方が考えられる」と元CIA高官は語ったが、極秘活動計画についてそれ以上詳しく語ることは控えた。 トランプ政権高官の1人は、前政権で北朝鮮船舶の極秘妨害ができなかったことを悔しがっていた。「あらゆる手を検討していました……実行を可能にする様々なテクノロジーも揃っていましたが、実際に決断するには至りませんでした」とその元高官は語った。「トランプ氏は口では大層なことを言っても、いざ引き金を引く段になると、厳しい決断を下すことには非常に消極的でした」。 とはいえ最大の圧力をかける政策は、トランプ氏が公の場で金氏をほめそやすようになっても続いた――2人目のCIA高官の言葉を借りれば、まるで正反対だった。「もっと強化して、大統領の交渉と歩調を合わせるよう指導されました」と元CIA高官は当時を振り返る。「『いいか、我々は悪ガキと交渉するんだ。できる限り圧力をかけて、大統領をできるだけ優位にしてやれ』と」 元高官によると、トランプ政権時にCIAは北朝鮮が密かに輸出していた禁制品(石炭など)や、北朝鮮に密輸されるその他物品(石油やキャビアなどの嗜好品)の特定と差し止めに一役買ったという。また海外で業務を展開する北朝鮮の総合建設企業や漁業会社が制裁に違反した場合には、資産没収にも関わった。「CIAが叩き潰していました」と元CIA高官は語る。 だがトランプ氏お気に入りのCIA活動は、知らず知らずのうちに北朝鮮政府とビジネスをしていたアメリカ企業から、北朝鮮から流出した金を凍結するというものだった。元高官によると、アメリカ企業には後日こっそり金を返していたという。この際、政府職員がすみやかに間に入り、驚いたアメリカ企業に製品のエンドユーザーの正体を明かした。そして北朝鮮に到着する前に政府が押収した製品を企業側に返却した。 アメリカ企業は製品を取り戻すことができた上に、北朝鮮からの支払いもそのままキープできた。「トランプ氏は(この案を)何よりも気に入っていました」と元高官は語った。元高官の推測では、最終的にアメリカ企業のふところには違法取引による北朝鮮の金が数十万単位で転がっていったそうだ。 CIA主導の活動はある程度成功を収めたものの、最終的には厳しい逆風に直面した。元高官の記憶では、CIAの尽力であちこちから北朝鮮の金が大量に巻きあげられた。だが2018年になると、北朝鮮のハッカーが「次々と暗号資産の取引所から金を奪い」始めた――元高官によると、1回で総額数億ドルが強奪されたこともあったという。CIAの極秘作戦は次第に徒労に終わった。 再選したトランプ氏が金正恩に銃を向けるのか、あるいは和平の手を差し伸べるのか。いずれにしても、北朝鮮と折り合いをつけることになるだろう。第1次トランプ政権の終盤以降、北朝鮮もいくつか教訓を得たはずだ。CIAの対北朝鮮戦争計画や妨害工作に変更がなくとも、「最大の圧力政策ver.2.0」は前回と同じというわけにはいくまい。
Zach Dorfman