バフェットが来日して最初に会いに来た経営者。オカフジさんは「Good storyteller」
世界的な原料高騰が続く中、追い風を受ける日本の商社業界。中でも伊藤忠商事は財閥系以外の総合商社として時価総額を大きく伸ばしている。なぜ、伊藤忠は圧倒的な成長を遂げているのか。その答えの一つは、創業以来受け継がれてきた「商人」としての心構えにある。 【全画像をみる】バフェットが来日して最初に会いに来た経営者。オカフジさんは「Good storyteller」 本連載では、岡藤正広CEOをはじめ経営陣に受け継がれる「商人の言葉」を紐解きながら、伊藤忠商事がいかにして「商人」としての精神を現代に蘇らせ、新たな価値を生み出しているのかを深掘りしていく。 連載第10回は、CFOの鉢村剛に聞くバフェットの伊藤忠評。
「会社にとって大切なことは従業員の期待と信頼に応えること」
伊藤忠の副社長CFOが鉢村剛だ。CFOとは最高財務責任者のことで財務戦略を立てる人をいう。平たく言えば伊藤忠の金庫番である。 そんな彼は新卒で入ったのではない。キャリア入社、つまり中途採用で伊藤忠に入社している。 大学を出た後、都市銀行に入り、短期間で辞めた後、鉢村はアメリカへ渡った。小さな上場日本企業がアメリカに持っていた子会社に勤め、28歳から33歳までは社長をまかされていた。鉢村は経営者として全力で仕事をした。 しかし……。彼は辞めてしまう。それは会社に持っていた期待と信頼をなくしたからだ。日本に戻り、34歳の時、伊藤忠に入社した。ゼロからのスタートだった。 なぜ、伊藤忠に入ったかと言えば、「期待できる、信頼できる会社」と思ったからだ。 鉢村は言った。 「私はあの時、前職の会社に期待と信頼を抱いていました。しかし、徐々にどこかおかしいと感じるようになってしまった。そのまま子会社の社長を続けていれば、今もその会社は存続していたかもしれない。しかし、鉢村剛個人の信用を毀損してしまうに違いないとも思ったのです。 アメリカのビジネス社会では会社の信用もさることながら、個人の信用が問われます。自分自身が扱っていた商品を信頼できなくなったら、やめるしかないと判断しました。 私は働く会社には期待と信頼を持たなくてはいけないと思いますし、会社もまた従業員に対して期待と信頼を持つべきです。お互いがそういった緊張の糸をつなぎながら働くべきです。相手に対して期待と信頼がなくなってしまったら、離れるしかありません。それで日本に戻ってきたのです」 鉢村はアメリカで働いていた時、その会社の本社や周りからは評価されていた。いつも褒められていた。しかし、鉢村は褒められたからと言って自分自身が成長したとは思えなかった。 伊藤忠に入ってから懸命に働いた。次第に重い役目を背負うようになっていった。会社や上司は鉢村を甘やかしたり、褒めそやしたりはしなかった。しかし、中途入社だからという差別は一切なかった。 「伊藤忠の人間は経営陣も従業員も投資家やお客様といった社外の方々に対して言ったこと、約束したことはきちんと守ります。当社がやっていることはその繰り返しです。繰り返しているうちに、商人にとってもっとも大切な信用と信頼という資産を増やすことができる」 他の総合商社であれば、鉢村は副社長にはなってはいないだろう。彼が副社長でいることは伊藤忠がフェアな会社であること、誰に対しても機会を均等に与えていることを示している。