なぜ2冠王者の堀口恭司が朝倉海に68秒KO負けする衝撃の“ジャイキリ”が起きたのか?
一方の堀口は、試合後の会見で「全然、覚えていないんで。ただ負けたことが凄く悔しいので、すぐにでも再戦したいなと思っています。朝倉の印象? 覚えていないんでわかんないですね」と言った。 心なしか、まだ目が泳いでいるようだった。右のカウンターをもらった直後から控室に戻るまでの記憶が飛んでしまった。 空手時代に「2、3度経験した」が、総合格闘家となって初の出来事だという。 「(カウンターは)想定内ですが、食らっちゃいましたね。でも、くよくよしてもしょうがない。前向きに、もう1回、今度は、ベルトをかけてダイレクトで(再戦を)やりたい。これで格闘技ももっと盛り上がると思う。またいちから強くなろうという感じです」 実は、堀口には、ジャイキリを許す“予兆”があった。 榊原実行委員長が明かしたが、これまでオファーを一度として断ったことのない堀口が今回の朝倉海戦を一度は、「やる意味が見つけられない」と断ってきたという。 RIZIN、ベラトールの日米2冠が、メジャー団体とは言えないアウトサイダー出身の朝倉海を相手に勝ったとしても当たり前と見られるだけ。逆に朝倉兄弟は、兄の未来が「RIZIN.17」で矢地祐介(29、KRAZY BEE)に判定で圧勝するなど、勢いに乗っていて、しかも、豊橋出身の朝倉にとって地元のホームリングという追い風もある。 だが、今回予定していた堀口の他の対戦相手候補は、この日、登場したDEEPのバンタム級王者で、バンタム四天王の一人、元谷友貴(29)を破っているビクター・ヘンリー(32、米国)くらいしかいず、外国人選手となると一般のファンにはピンとこない。 「やる意味のある選手が今、他に誰がいる? 契約的に問題のない選手はいるのか? 朝倉はRIZINで4連勝中だし、地元出身。日本格闘技を盛り上げるというテーマにはふさわしい選手だと思う」と、榊原実行委員長が説得すると、30分後に「受けます」と連絡があったという。「日本の格闘界が盛り上がるなら」の消去法で受けた相手に高いモチベーションを維持するのには無理があった。 「ベラトールで勝ってほっとしたのかも」とも榊原実行委員長は推測した。 朝倉とは、戦う理由に大きな差があったのかもしれない。 加えて肉体面のコンディションも良くはなかった。 試合後、そのことについて聞かれ、堀口は「ちょこちょこありますけど、そんなことを言ってもしょうがない。負けは負けです」と、言い訳を一切口にしなかった。 だが、実際のところ、その小さな肉体はボロボロだった。慢性的な腰痛に加え、オーバーワークの悪影響がずっと付きまとっていた。 チーフトレーナーのマイク・ブラウンは、ベラトールで王者になった試合も含めて、ここ数試合で「50パーセントも力が出せていない」とずっと心配していたという。 今回、堀口は7月28日の「RIZIN.17」でリング上で2本のベルトを肩に凱旋報告する必要があり、いつもより1週間早く「アメリカントップチーム」での米国合宿を切り上げたが、マイク・ブラウンは、堀口陣営に「練習をやりすぎるな」「休養をしっかり取れ」「体のケアを怠るな」の3箇条を守ることを執拗に伝えてきたという。