バルト海ケーブル損傷 NATOが警戒を強化 「影の船団」が破壊か
バルト海のフィンランドとエストニアを結ぶ海底ケーブルが25日に損傷した事故で、北大西洋条約機構(NATO)は27日、バルト海での不審船に対する警戒を強化すると発表した。フィンランド当局は、ロシア産原油を運搬中のクック諸島船籍のタンカー「イーグルS」がいかりを引きずる形で海底ケーブルを損傷させたのが原因とみて捜査している。 【写真】ウクライナ侵攻以降、ロシア人の主な移住先 フィンランド政府によると、25日に損傷したのは同国とエストニアを結ぶ全長170キロ(海底部分145キロ)の送電線「Estlink2」。25日昼に送電を停止し、復旧工事は2025年7月までかかる見通し。ほかにも同じ海域でインターネットケーブル4本が損傷した。エストニア政府は稼働中の送電線「Estlink1」の安全確保のために哨戒艇を派遣した。 NATOのルッテ事務総長は27日、X(ツイッター)でフィンランドのストゥブ大統領と「海底ケーブルの破壊活動を巡る捜査について協議した」と明かし、NATOがバルト海での警戒活動を強化する意向を表明した。 フィンランド沿岸警備隊は26日、現場付近を航行していた「イーグルS」を拿捕(だほ)。フィンランド領海に誘導した。フィンランド地元メディアによると、沿岸警備隊がイーグルSのいかりが欠損しているのを確認した。フィンランド当局は、このタンカーがいかりで海底ケーブルを損傷させたとの見方を強めている。 欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会は26日、バルト海での捜査にあたる現地当局との共同声明で、このタンカーが、ロシア産原油の不法運搬に関与する闇タンカー群「影の船団」の一部であると断定。「欧州の重要インフラに対するいかなる意図的な破壊も強く非難する」と述べた。また既に実施している影の船団を対象とする制裁をさらに強化すると発表した。 一方、ロイター通信によると、ペスコフ露大統領報道官は27日の記者会見で、イーグルSの拿捕についてコメントを拒否した。 バルト海では11月にも、フィンランドとドイツ、スウェーデンとリトアニアを結ぶ通信用の光ファイバーケーブルがそれぞれ損傷。スウェーデン当局などが、中国籍の船がいかりを下ろしたまま航行した疑いがあるとみて捜査している。この中国籍の船も「影の船団」の一部とみられている。 エストニアのツアフクナ外相は26日、「海底インフラの損傷はより組織的に行われており、攻撃とみなさなければならない」との声明を発表した。 EUは6月、「影の船団」やロシアの軍事装備などを輸送する船舶の域内への入港を禁止するなど取り締まりを強化している。影の船団には整備不良の老朽船が使われることが多く、事故による油漏れなどの環境汚染も危惧されている。【ブリュッセル宮川裕章】