ボツ寸前…諦めず書いたら芥川賞 松永K三蔵さんと「オモロイ純文」
第171回芥川賞を受賞した兵庫県西宮市在住の作家、松永K(けー)三蔵(さんぞう)さん(44)に、市が文化芸術特別賞を贈った。受賞作「バリ山行(さんこう)」(講談社)は、実はボツ寸前の危機にあったという。「でも諦めず、絶対面白いと信じ、何回も書き直した」。3年かけて仕上げた作品で、一気に純文学の頂へと駆け上がった。 【写真】芥川賞受賞で贈られた懐中時計を披露する松永K三蔵さん=2024年11月19日、兵庫県西宮市役所、真常法彦撮影 19日、市役所で賞の贈呈式があり、松永さんが出席した。 作品には六甲山系の低山で登山をする主人公が描かれ、阪神間のまちも登場する。松永さんは「小説を書く上で、西宮の程よく都会なまち、風土が大きく寄与した」と振り返った。 茨城県生まれ。幼少期に西宮市に移り住み、現在も市内に家族と住む。 自身も5年ほど前に登山を始めた。「登山中はいろんなことを考える。自分のこと、過去のこと、これからのこと。そういうところは小説的、文学的行為に近い。だからこれは小説になるなあと思っていたんです」 今も会社勤めを続ける。午前7時ごろから、仕事が始まる午前9時前までの約2時間、会社近くの喫茶店で執筆活動をしている。 作品の主人公も会社員の男性だ。松永さんは「普通に生きて、普通に働く人たちが抱える葛藤や、ニュースにもならない戦い。そのなかに隠れている普遍的なものを書いていきたい」。 「オモロイ純文運動」をひとりで推し進める。芸術性を求められ、難解と見られがちな純文学の「おもろさ」に気付いてほしいと願う。 「まちの本屋さんがどんどん減っている。スマホもゲームも動画も面白いけれど、小説だって面白いんだということを伝えていければ」(真常法彦)
朝日新聞社