共に物語を創る
「違い」を尊重できなくなっている自分の発見
進化の観点から捉えると、「自分と違う考えを持っている人」への抵抗は、人間にとって生き残るために重要な反応でした。太古の昔、緊密な集団を形成するためには、敵と味方の境界を明確にすることが重要だったのです。そういう意味では、「違う考えをもっている人」に対して反発を感じるのは、人間の本能なのかもしれません。(※2) しかし一方で、現代に生きる私たちは、様々な考えを持っている人たちが互いに交わることの意義と価値を知ってもいます。実際に、そうした多様性のあるチームは、そうではないチームと比較して、社員リテンションが5倍以上だったり、イノベーションが多かったり、収益成長率が高かったりすることを、データやリサーチを通してよく目にします。(※3) 幼い頃から国を転々とし、人生の半分を日本、半分をカナダで過ごし、様々なバックグラウンドや文化をもつ人と接してきた私は、これまで自分には「違いを尊重するあり方」が染みついていると信じてきました。だからこそ、プロジェクトに取り組む中で、そうでない自分を発見したことは、とても心地悪く、心の中は葛藤で溢れ返りました。
人は皆、自分の物語を生きている
違う意見をもつ人たちといったいどのように向き合っていくと、組織の変革を前進させることができるのか。 もっと言うと、どのように自分と向き合っていくと、相手とうまく向き合っていけるのか。このぎごちない状態の中、先輩コーチと、現状を立ち止まって俯瞰する場をもちました。 私たちは、自分が創り上げてきた物語の中で生きています。自分の物語から世界を見て、その物語を通して、現状と向き合っています。相手の物語と自分の物語が異なることを知ったとき、そこに好奇心や興味が湧いてくることもあれば、抵抗や葛藤、反発が起きることもあります。コーチと話しながら、私は自分が今、物語と物語の対立の間にいることに気づきました。 私たちは今、様々な物語をもっている人たちと共に、自分たちの組織にとっての新しい物語を創っていこうとしています。変革というプロセスは、物語を一緒に創っていくプロセスでもあれば、自分たちが異なる物語をもっていることを認めていくプロセスでもあるのかもしれないと解釈し始めています。 * * * これは、もしかしたら、 「すずと、小鳥と、それからわたし、 みんなちがって、みんないい。」 という本当の意味に、出逢い直している体験でもあるかもしれません。 あなたは、自分と意見の違う相手と向き合った時に、どんな心境になりますか? 勝つチームを創っていくために、その相手と、どのように向き合っていくことを選び直しますか? (日本コーチ協会発行のメールマガジン『JCAコーチングニュース』より、許可を得て転載)