曲がる太陽電池の夢:どこにも置けて、将来は「街全体が発電所」?
エネルギー安全保障
太陽光発電を含め再生可能エネルギーの普及は、エネルギー安全保障にもつながる。 火力発電が中心の日本のエネルギー源は石油、石炭や天然ガスなど化石燃料の輸入に依存。自給率(2021年度)は13.3%と、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中37位に沈む。ロシアのウクライナ侵攻で原油は高騰し、日本経済は大いに苦しめられてきた。地政学リスクの悪影響を避けるためにも自給率の向上は欠かせない。 また、従来型の太陽電池の発電素材であるシリコンは、大半が中国産。これに対し、「曲がる太陽電池」の主な発電素材は、日本が世界2位の産出量を誇るヨウ素だ。米中対立から半導体の供給に支障が出たのとは違い、国産素材であれば、サプライチェーン(供給網)が途絶える恐れはなくなる。
電力の「地産地消」
猛暑など気候変動が一段と激しくなる中、電気代の高止まりは家庭や企業にとって切実な問題だ。消費地から遠く離れた火力発電所などから運ばれてくる電気は元々、送電網を含め巨大な設備を必要とするので高くつく。これに対し、太陽光発電のような「地産地消」型電力は本来安くなる。さらにエネルギー源を見ても、太陽光は化石燃料と違いタダだ。 積水化学の森田氏はこう言う。「量産体制に入れば、商品は安くできるので、いずれ一般家庭用にも販売できるようになる。単体では既存のシリコン太陽電池より高いものの、設置から廃棄までのトータルコストで見れば、安くできる」 東芝の試算によると、「曲がる太陽電池」(光を電気に変える変換効率15.1%)を東京23区内の建物の屋上全てと一部の壁面に設置した場合、原発2基分、23区の年間家庭消費電力の3分の2の発電が見込めるという。 ただし、こうした将来像を現実のものにするには、耐久性など一段の技術革新やデザインの進化に加えて、大幅な価格低下が求められる。その道のりは決して平たんではないのも事実だ。
【Profile】
持田 譲二(ニッポンドットコム) MOCHIDA Jōji ニッポンドットコム編集部。時事通信で静岡支局・本社経済部・ロンドン支局の各記者のほか、経済部デスクを務めた。ブルームバーグを経て、2019年2月より現職。趣味はSUP(スタンドアップパドルボード)と減量、ラーメン食べ歩き。