曲がる太陽電池の夢:どこにも置けて、将来は「街全体が発電所」?
当初の販売価格は高くなると予想されるものの、「将来は炭素税が導入されるかもしれないと考えたら、新型太陽電池を入れた方が安いとか、企業価値の向上や社会的責任を意識する大企業もある」と、同社PVプロジェクトヘッドの森田健晴氏は話す。 既存のシリコン太陽電池を設置できず、さらに日照の多い場所として新型太陽電池メーカー各社が注目しているのが、工場や倉庫などの屋根だ。薄くて耐荷重が低いため、軽量の新型太陽電池を置きたいユーザーが多いという。積水化学が、東京港の玄関口の東京国際クルーズターミナルで実証実験しているように、曲がる特性を生かして、柱のような曲面にも貼り付けることができる(1番目の写真参照)。
垂直な壁面も従来の太陽電池では考えられなかった盲点だ。東京・日比谷(内幸町1丁目)の再開発地区で2028年度に完成予定の43階建て超高層ビルは、外壁の内側に同社の新型太陽電池を導入し、「発電するビル」となる。1000キロワット強の発電量を見込む。 家屋の壁も利用できる。豪雪地帯では屋根上の太陽電池は機能しなくなるが、外壁に貼れば、つかの間の晴れた日に反射光で発電は可能となる。
2050年の夢
「曲がる太陽電池」は生産当初、工場の設備投資や減価償却費がかかり、販売価格は高くなる。しかし、量産できれば、やがてコストは下がり、導入しやすくなる。2025~30年度の早いうちに発売予定の東芝エネルギーシステムズは、2050年までに都市部のあらゆる場所に設置可能になると考えている。 値ごろ感が高まれば、応用範囲も広がる。同社によると、人手不足に悩む農業分野では、ビニールハウスに「曲がる太陽電池」を置き、温度・湿度制御やドローンによる農薬・肥料散布の自動化で、省力化を図れるという。このほか、災害時には床に広げて緊急電源となる「巻ける太陽電池」の開発も考えられる。
東芝はまた、「自然光がある程度入り込めば、室内でも『曲がる太陽電池』は発電可能」(次世代太陽電池事業戦略グループ長・櫻井雄介氏)とし、東京都とともに室内での発電効率の検証に取り組む。窓辺やカーテンウォールなど陽が差し込む場所の利用が期待される。 一方、太陽電池は、電気自動車(EV)が万が一の電気切れの際、補助電源としても活用できる。既に一部のハイブリッド車にはオプション仕様として、シリコン太陽電池が屋根に搭載されているが、「曲がる太陽電池」を使えば、はるかに軽量のため、「電費」(ガソリン車の「燃費」に相当)が良く経済的。京都大学発のスタートアップ企業、エネコート・テクノロジーズはトヨタと共同で車載用の新型太陽電池を開発中だ。