欧州メーカーの危機に先鋭化する欧州・中国の対立 EVシフトはこのまま終わるのか?
EVシフトのカギを握る中国と欧州
◆攻める中国に、待ったをかける欧州 昨今の電気自動車(EV)かいわいのニュースを見ると、中国BYDの好調が目につく。2024年10月末に発表された2024年第3四半期(7~9月)の売上高は、前年同期比24%増の2010億元(約4兆3200億円)と過去最高を記録。販売台数ですでに上回っていたテスラを、売り上げでも抜いたことで話題になった。いま最も勢いのあるメーカーと言っても過言ではないだろう。 【写真】日本メーカーもEVで本気に!? スズキの新型量産EV「eビターラ」の外装・内装をチェック(14枚) いっぽうで、心配なニュースも聞こえてくる。EUの欧州委員会が中国製EVに対して追加関税措置を発動し、中国政府がこれに反発しているのだ。欧州ではEVシフトの戦略そのものを見直す動きも出ているだけに、中国と欧州の動きが今後のEV市場に大きな影響を及ぼすことになりそうだ。両者のうち、まずは中国の現状から読み解いていきたい。 ◆群雄割拠といわれた中国EVメーカーのいま 冒頭でも触れた中国のBYDは、深センで1995年に創業した。当初は携帯電話など民生品向けのバッテリーを手がけており、2003年に自動車産業へ参入。2008年には自社ブランドのプラグインハイブリッド車「F3-DM」を発売した。その後も大手資本家の後押しなどを受けて多様なモビリティーを手がけ、今や中国随一のメーカーとなっている。日本でも2023年にEVの販売を開始し、2024年10月には国内33店舗目のショールームをオープンした。 自動車メーカーとしてのBYDの歩みは、中国の新エネルギー車(NEV)推進の歴史に重なる。中国政府は自動車を主要産業のひとつに据えており、2009年にスタートした「十城千両」プロジェクト(毎年約10都市の公共交通部門に1000台のNEVを導入するというもの)を筆頭に、特にNEVの普及を促す施策を次々と打ち出してきた。もちろん、メーカーへの産業支援や充電インフラの整備などにも力を注ぎ、全方位で施策を推し進めている。そのかいあって、近年の中国におけるNEVの普及は目覚ましく、今や世界販売の約6割を同国の国内市場が占めるに至っている。また対外的にもロシアや欧州への輸出を強化しており、さらなる拡販をもくろんでいる。 中国のEVメーカーでは、BYDや奇瑞汽車(iCAR)、吉利汽車(ZEEKR)、広州汽車(AION)などの大手メーカーに加えて、理想汽車(Li Auto)や小鵬汽車(Xpeng)、蔚来汽車(NIO)などの新興メーカーもよく知られるところ。最近ではスマートフォンメーカーの小米(シャオミ)もEVを発売して話題を呼んでいる。 ◆影を落とす中国の景気後退 このように勢力を増す中国勢は、外部から見れば確かに脅威に映るが、実情はそう単純ではない。中国国内のEV市場ではBYDとテスラが圧倒的に強く、この2社を除けば、どこも経営的に厳しい状況なのだ。一番の要因は国内市場の低迷である。EVの新車販売数が伸び悩んで生産過剰となり、価格の下落が起きているのだ。市場には小型車からハイエンドの高級車まで多種多様なモデルがそろっているが、どのクラスでもこの傾向は変わらない。 中国にとってEVシフトは国策だったわけだが、15年かけて掘り起こした都市の需要は一段落した。今後は新たな市場を開拓したいところだが、残るターゲットはあらゆるインフラ整備が遅れている農村部で、各社はここにテコ入れするかどうかの判断に迫られている。体力がないメーカーにとって、先行きが見えない市場で闘い続けるのは容易ではない。 中国自動車メーカーの急速な外界進出には、こうした背景もあるのだ。