アギーレジャパンの多国籍コーチ陣をカバーする2人通訳制
吉田によれば、途中の10分ほどはイギリス人のスチュアート・ゲリング・コーチが指揮を執ったという。このときだけは英語も堪能な羽生氏がゲリング・コーチをサポートしている。メキシコ人監督とスペイン及びイギリスで構成される異例の多国籍スタッフは、アギーレ監督の要望を受けて結成された。スペイン代表GKとして2002年のワールドカップ日韓共催大会のメンバーに選出されているロペスGKコーチは、リーガ・エスパニョーラのオサスナでアギーレ監督の下でプレーしている。 オサスナのBチームを指導していた手腕をアギーレ監督に見込まれ、2002年夏にトップチームに引き上げられたイリバレン・フィジカルコーチは以来、アトレティコ・マドリード、メキシコ代表、サラゴサ、エスパニョールとコンビを組み続けて13年目になる腹心中の腹心だ。言語圏の異なるゲリング・コーチは、現役時代はリバプールでプレーした経験を持つ。引退後はリバプールのエリートアカデミーコーチやマネジメント会社のダイレクターとして育成年代を長く指導。その過程で知り合ったアギーレ監督に育成の多彩なノウハウを見込まれ、今回の入閣に至った。 羽生氏によればゲリング・コーチはスペイン語もある程度理解していて、会話もできるという。実際に練習終了後は羽生氏を介することなく、アギーレ監督と2人で話し込んでいる。コーチングスタッフが初めて顔を合わせた8月15日に、アギーレ監督は一致団結を呼び掛けたという。 「いろいろな国籍でいろいろな言葉が飛び交うが、ひとつのチームになって頑張りましょう」。日本サッカー協会が主導する形で唯一コーチとして入閣した、リオデジャネイロオリンピック出場を目指すU‐21日本代表の手倉森誠監督に対しても、アギーレ監督は羽生氏を介して頻繁にコミュニケーションを取っていた。国籍や言語の違いが理由で首脳陣が瓦解する恐れは、現時点でないと言っていい。 2日に本田らが合流し、招集されたメンバー23人全員がそろった。初日はミーティングを行わなかったアギーレ監督は、いよいよ本格的なチーム作りに着手していく。「2日か3日のトレーニングセッションでひとつのチームを作り上げる作業は難しい。それでも、私はサッカーとは戦うものであると考えているので、戦う姿勢を求めていきたい。明日から練習の負荷を上げていくし、ミーティングでは私のチームの規律なども伝えていく」。 注目の初采配をふるう5日のウルグアイ代表との国際親善試合(札幌ドーム)へ向けて、55歳のメキシコ人指揮官のスイッチがいよいよ戦闘モードに突入する。 (文責・藤江直人/スポーツライター)