アギーレジャパンの多国籍コーチ陣をカバーする2人通訳制
アギーレ監督の強面の表情が与える先入観をいい意味で破壊し、指揮官と選手の距離を一気に縮める上でも、通訳にはアギーレ監督と一心同体となる作業が求められる。東京ヴェルディでアルゼンチン人のオズワルド・アルディレス、ベガルタ仙台でブラジル人のジョエル・サンタナ、ジュビロ磐田でオランダ人のハンス・オフトと国籍の異なる監督の通訳を務めた経験を持つ羽生氏は、スペイン語、ポルトガル語、そして英語に精通している。サッカーに対する知識の深さを含めて、申し分のない人材と言っていい。一方で、決して小さくはない問題も生じてくる。アギーレ監督と羽生氏の「二人三脚」が欠かせない状況になるほどに、スペイン人のロペスGKコーチ、同じくスペイン人のフアン・イリバレン・フィジカルコーチと選手たちのコミュニケーションが取れなくなるおそれがある。 そこで、アギーレジャパンの始動に合わせて、日本サッカー協会が主導する形で史上初めて通訳を2人体制とすることが決まった。今回の合宿初日からスペイン語を専門とする渡邉幸司氏がロペス、イリバレン両コーチに寄り添い、選手たちには不慣れな外国語を日本語に訳して伝えている。次期技術委員長就任が内定している霜田正浩技術委員が、通訳を2人体制にした理由を明かす。「前回は一人(の通訳)ですべてをやらなきゃいけない状況でした。今回は各コーチも選手たちと話をしたいと希望しているので、ならば言葉の壁を取り払ってコミュニケーションを密にできる体制にしたいと(日本協会に)お願いしました。渡邉さんはアルゼンチン育ちで、スペイン語の能力は羽生さんと同じくらい高い。サッカー関係の仕事にも長く就いていたので造詣が深く、フットワークも軽いんですよ」。 アルベルト・ザッケローニ前監督は、コーチ陣をセリエA時代から仕事をともにしてきた旧知の4人のイタリア人で固めた。首脳陣のコミュニケーションは取れたかもしれないが、通訳が一人だったこともあり、指揮官以外のコーチ陣と選手たちの距離は決して近いとは言えなかった。この日の練習では早川直樹コンディショニングコーチとイリバレン・フィジカルコーチが交互に指示を出し、全体練習終了後にはGK陣が居残ってロペスGKコーチの指導を受けた。アギーレ監督と羽生氏は常に一緒にいるだけに、渡邉氏の存在がさっそく功を奏した形だ。