【特別対談】日本の国際的影響力は、バブルの頃よりはるかに大きくなっている――「GDP世界2位」でなくとも果たせる「重要な役割」とは/北岡伸一×田中明彦
国際政治学者・北岡伸一氏の新著『覇権なき時代の世界地図』(新潮選書)が刊行された。 北岡氏は著名な研究者でありながら国連次席大使(2004~06年)、JICA(国際協力機構)理事長(2015~22年)を歴任し、国連での活動や途上国への開発協力を通じて激動する国際社会の現場を見つめてきた。 JICA理事長時代の経験を中心にした『世界地図を読み直す――協力と均衡の地政学』(新潮選書)に続き、JICA特別顧問としての取り組みを含めた直近の活動を通して見えてくる世界の実像とは。そして今後の日本にできること、すべきことは何か。盟友でありJICA現理事長でもある田中明彦氏と語った。 ***
緒方貞子さんから引き継いだJICA理事長
田中 私はいまJICA(国際協力機構)の理事長で、北岡さんは特別顧問ですが前理事長であり、その前は私が理事長でした。私は2回目ということになります。なぜ私たちのような研究者がJICAの理事長を歴任してきたかというと、2003年に現在の独立行政法人になって最初の理事長を務めたのが国際政治学者の緒方貞子さんだったということが大きいと思います。 緒方さんから引き継いだ当時の任命権者の意図はよくわからないのですが、国際協力は非常に幅が広くて、農業のような専門的な技術協力もあれば円借款という金融業務もあり、開発経済学という学問的な見地も必要になる。JICAという組織の特性から、国際社会全体にある程度の目配りができる人間が指導するのが望ましいということかもしれません。 北岡 さらに前史を話すと、私と田中さんは1992年以来の付き合いなんです。読売新聞社が憲法問題調査会を設置した際に、我々は委員として第1次提言の原案を書いた。その時の結論は、憲法をすぐに変える必要はなく、解釈をきちんとやって行けばよろしいという立場で、これは政治学者としては中道なんですね。田中さんは理論で私は歴史と、バックグラウンドは違いながら、なぜか物事の判断が似ているところが多くて、他の場所でも私が座長で田中さんが座長代理というようにコンビを組んできました。 緒方さんがJICAの理事長を辞められた後、いちおう私にも打診がありましたが、他の都合で受けられず、田中さんに決まって良かったと思っていた。田中さんの後にまた私に声がかかって、私が日本の外交を教える中でODA(政府開発援助)も対象の一つだったので、ある程度の知識はありましたが、現場でどのように行なわれているかも知りたかったし、もっと推進すべきという考えだったので、やりたいと思った。それが引き受けた理由です。 2022年に6年半の任期を終える頃、JICAを所管する外務省が、次の理事長は公募したいと言ってきた。公募だと年齢制限があるため、私にはほぼ可能性がない。外務省の判断というのは、しばしば短期的な国際情勢に振り回されます。JICAは独立行政法人ですが、もう少し長いスパンで仕事をする必要があるので、外務省の言う通りではなく、良好な関係を保ちつつも独自の判断ができる人が望ましい。それで田中さんにもう一度やっていただくのがいいと思ってお願いに行って、手を挙げていただいたんです。