「不妊治療」のステップアップの順番はご存じですか? 治療の流れや心構えも医師が解説
不妊治療のステップアップ
編集部: それでも妊娠しなかった場合はどうなりますか? 長谷川先生: もしタイミング法や薬物治療で妊娠が難しい場合、次のステップとして「人工授精(AIH/IUI)」」が提案されます。人工授精では、精子を直接子宮内に注入することで妊娠の確率を高めます。特に精子の運動率が低い場合や、女性の子宮頸管に問題がある場合などに有効です。 編集部: 人工授精は、体外受精とは違うのですか? 長谷川先生: 人工授精は、精子を女性の体内に注入する方法ですが、「体外受精(IVF)」では、卵子と精子を体外で受精させ、数日間培養した後に、成長した受精卵(胚)を子宮に戻します。体外受精は、卵管の問題や重度の男性不妊、または人工授精などで結果が出ない場合に選ばれることが多いですね。 編集部: 体外受精でも結果が出なかった場合は? 長谷川先生: 体外受精がうまくいかなかった場合、次のステップとして「顕微授精(ICSI)」が提案されることが多いと思います。顕微授精は、精子を直接卵子に注入して受精を助ける方法です。治療を続けるかどうか、どのタイミングでステップアップするのかなどは、当人たちの希望や体調、精神的・金銭的な負担などを考慮して決めていきます。
出口の見えない不妊治療…専門医からのアドバイス
編集部: いくつかのステップがあるのですね。 長谷川先生: そうですね。ただ、全てのカップルが、1つずつステップアップしていくわけではありません。年齢や不妊の原因などによって、最初から体外受精や顕微授精を勧めることもありますし、いきなり不妊治療に入るのではなく、まずは原因疾患の治療に専念しましょうとお伝えすることもあります。 編集部: 不妊治療を始めるにあたって、気をつけることなどありますか? 長谷川先生: よくありがちなのは「自力で妊活をする」時期が長すぎて、時間ばかりが過ぎてしまうパターンです。原因が不明なまま妊活を続けているうちに、精子や卵子の質が低下して卵子の数も減っていきます。そうなると、いざ治療を開始したときには成功率が落ちてしまっているのです。妊活を始めて半年くらいで結果が出なければ、夫婦でクリニックに相談していただくことをおすすめします。 編集部: 「精神的につらい時期がある」と聞いたことがあります。 長谷川先生: 治療がうまくいかないとき、どうしても「自分だけが妊娠できない」と考えてしまったり、SNSなどで周りと比べたり、情報に振り回されたりすることもあるでしょう。いわゆる「不妊うつ」に陥るケースも多いので、インターネットを過度に見過ぎない、信じすぎないよう心がけるのが大事です。ただ、SNSが悪いというわけではなく、そこで同じ悩みをもつ仲間を見つけて前向きになれるという、プラスの側面もあるとは思っています。 編集部: 不妊うつという言葉があるのですね。 長谷川先生: はい。実際に、ストレスと妊娠率は関係があると言われており、それを裏付ける研究データも多くあります。ストレスが溜まっていると感じたら休息をとって、まずはストレスを緩和させることが大事です。そして、一番大事なのは「1人で抱え込まないこと」です。パートナーと価値観や意見をすり合わせ、伴走して治療ができたらいいですね。医師や看護師も、治療経過を把握しているので、より親身になって話を聞いてくれると思います。 編集部: 最後に、読者へのメッセージをお願いします。 長谷川先生: 不妊治療は「出口の見えない暗いトンネル」とも言われています。「ストレスを溜めないように」と言われても難しいかもしれませんが、旅行をしたり、美味しいものを食べたりして、適度に休息しながら取り組んでほしいと思います。また、妊娠に至るまでには、「卵子が育つ」「受精する」「受精卵が育つ」「着床する」などの段階があり、1つ階段を登っただけでもすごいことです。妊娠の有無だけを見て「妊娠しなかったから失敗」と考えず、一歩一歩進んだ自分を褒めてあげてほしいと思います。