スペイン紙が報じる「日本の『百年の孤独』ブーム」─日本語版には、原書にはない“良さ”がある!
2024年の夏、「文庫化したら世界が滅びる」とまで言われてきたガブリエル・ガルシア=マルケスによる『百年の孤独』が、ついに文庫化された。本書はたちまち重版され、翻訳小説としては異例のヒットを記録している。スペイン紙「エル・パイス」もこの状況に注目し、日本語版のユニークさや、本作がいかに日本の作家たちに影響を与えてきたかを報じている。 三宅瑠人が手掛けた『百年の孤独』日本語文庫版の表紙 『百年の孤独』(1967)の日本語文庫版は、今夏の出版業界における異例の出来事となった。8週間で約29万部を売り上げたのだが、これは過去52年間に出版された本書の単行本版の、第3版までの印刷部数にほぼ匹敵する数字なのだ。 ガブリエル・ガルシア=マルケスの傑作が予期せぬリバイバルを遂げた理由のひとつは、この小説を原作としたNetflixのドラマシリーズの公開が近いことだ。 このマジックリアリズム作品は、日本の一流作家たちにも影響を与えてきた。マコンド(本作の舞台となる架空の町)らしい事物や人物が百科事典的な形式で描かれている表紙は、日本でいま最も人気のあるイラストレーターの三宅瑠人が手がけている。彼はグッチやボッテガ・ヴェネタ、アップルといったブランドの広告キャンペーンに起用されたこともある人物だ。 「Netflixのドラマシリーズを視聴するであろう人々のために、この作品の廉価版を提供するというだけでなく、ガボ(ガルシア=マルケスの愛称)の没後10年という節目を利用して、彼の文学を再紹介したかったんです」 そう話すのは、この文庫版を担当している新潮社文庫出版部の菊池亮だ。本作が日本で初めて出版されたのは1972年のことで、新潮社が版元だった。当時、このコロンビア人作家はまだノーベル文学賞を受賞していなかった……そして菊池はまだ、生まれてもいなかった。 「エル・パイス」の取材に応じる菊池は、ガルシア=マルケスの笑顔があしらわれた黒いTシャツを着ている。そのTシャツには、スペイン語で「マコンドへようこそ」と読める黄色の文字も書かれている。これは広告キャンペーンの一環で、他にもブエンディアの家系図を描いたトートバッグなどのグッズがある。 新潮社によれば、単行本版は売れ行きが緩慢だったにもかかわらず、世界文学の傑作という評判に鑑み、出版以来ずっと日本の書店の棚から消えることはなかった。現在までに、『百年の孤独』は46の言語で出版され、少なくとも5000万部を売り上げている。