このお仕事って、甘い世界じゃないんだな――森七菜が「割とグチャグチャ」な日々を経て手にした新しい「強さ」
「なぜみなさん、そこまで私を気にかけて愛をくださるのか……。『私がみなさんに何かを贈れているか?』となると全然わからない(笑)」 そもそも、自分には「芯」と呼べるものも、特筆すべきものもないと漏らす。 「『自分にアイデンティティーがあるか?』となると、そうでもないんです。それが良いことなのか、悪いことなのか……(苦笑)。ただ、お芝居をやる以上、芯がないのは恥ずかしいことではないなって。そのほうが、常に役という『自分ではない誰か』に寄り添うこの仕事ではすごく助けになるんです。なので、芯やこだわりを持って『ドン!』と構えるよりも、その都度訪れる変化を受け入れることを大切にしているのかな」
自信をなくしたら人混みに紛れに行く
自身のキャリアについて、森はこう振り返る。 「どちらかというと、割とグチャグチャだなあって。今でも整っていない部分、未熟な部分がいっぱい。それに、周りに助けられたことも、逆に振り回されてきたこともたくさんあって。このお仕事って、やはり一筋縄ではいかないんだな、甘い世界ではないなって実感しています」 数々のオーディションで重要な役を獲得してきたことから「オーディションにめっぽう強い女優」と森を評すメディアもあった。しかし、「全然。普通に落ちていますよ。悔しくなることのほうがたくさん」とこぼす。世間が彼女にイメージする「笑顔」の裏側で、一人苦悩する瞬間も同じ頻度で訪れる。 「自信をなくしたときは、どこか人混みの中に紛れに行きます。家にいるだけで何か考えちゃうので、とにかくノイズの多い場所に行って、そのノイズに身を任せるしかなくて。ただ、人混みに紛れたとてすぐ浮上しないんです。浮上しない想いを抱えたまま次の試練がやってきて、その試練を越えたときに、やっと少し自信が戻ってくる。その繰り返し、波のような人生です」
悪い噂には言い返さない、自分の力でかき消す
仕事にまつわるつらい経験ならば、自分を見つめ直し、中に深く潜ることでじっと耐えられる。ただ、自分の意思や行動が関わらない出来事には、どうしても耐えられない瞬間もあった。 「ある時期、いっぱい周りの人たちを戸惑わせたこともあって、その結果、応援してくださる方との距離がすごく遠くなったことも正直ありました。けれど、そう思ってしまう人たちは何も悪くないんです。だって、文字にされると、誰でもどうにでも受け取ってしまいます。私に関する話が出てしまったのならば、私は一度そのことを受け止めるしかない」 そう語ると、思わず肩をすくめ苦笑いを浮かべた。 「引っ込み思案の上、自分に自信を持てないから、気持ちを口にしたり発信することが本当に苦手」という森は、独り歩きしていく噂に対して、グッとのみ込み通り過ぎるのを待つしかなかった。この世界が嫌になることはなかったのだろうか? 「全然。私がやっているラジオ(TOKYO FM/JFN38局『SCHOOL OF LOCK!』内の「森七菜LOCKS!」)に、私の歌についての感想や励ましのお便りが届くたびに、すごくうれしい気持ちになるんです。嫌な声を聞かないためだけに、応援してくれる人たちと離れるのは、あまりにも寂しすぎるなと思って」 何より彼女の周りには、素晴らしいモデルがいる。