自分を主語にして話す、感情を言語化する...若者の“主体性”を育てる意外な視点
「帰ってきてくれればいい」――自分が自分であることを許し、やり直していく
プログラムは1日単発のものから、3か月間集中型のものまであり、相談者状況に応じて受講してもらう。支援スタッフとの面談やプログラム受講を経て、相談者はいよいよ一般就労へと動きだす。 とはいえ、サポステでは相談者たちにいきなり就職活動をするのではなく、その前に職業体験をするように勧めている。白砂氏の言葉である。 「うちは独自に約60社の職業体験に協力してくれる企業を持っています。製造業、介護、小売り、建設、事務作業など業種は多岐にわたります。 1つの職場につき1~2週間ほど職場体験をしてもらい、1社から数社をめぐって自分がその仕事に合っているかどうかを判断してもらう。それで大丈夫ということであれば、その企業、あるいは別の会社の同種の職種に応募してもらいます」 重要なのは、企業側が相談者たちの抱えている特性を認識しているかどうかだ。それがわかっていれば、企業の方も理解を示し、その人に適した対応の仕方を考えてくれる。 それが両者の溝を埋めることになる。さらに若者の状態を理解し、共に若者を育てるパートナー企業が地域に増やしていくことも、支援組織の重要な役割だ。 キャリアブリッジのサポステの出身者の就職等率は87.2%、6カ月の定着率は90.9%だ。これは全国のサポステの中でも高い数値になっている。全国平均の就職等率が73.2%、定着率が78.9%なので、かなり高い数値となっているといえるだろう。白砂氏は言う。 「再就職先で失敗して、またうちに帰ってくる方はいます。ただ、ここに帰ってきてくれればいい。帰ってくるのは、その人が自分に何かが足りないことを自覚していて、それを克服しようとしているからでしょう。 それなら、私たちは彼らを受け入れ、もう1度その手伝いをすればいい。そうしたくり返しの中で、働くのに必要な力がついていくのではないでしょうか」 国語力がない人が、周りとうまくいかないのは当たり前だ。企業に時間をかけて育てる余裕がないのならば、サポステのような支援組織が根気強くその力を育て、若者と企業の橋渡しをしていけばいい。この言葉からは、白砂氏のそうした決意がうかがえる。 国語力のない若者たちは、努力が足りなくてそうなったわけではない。物心ついた時から大人に雁字搦めにされて、自分が自分であることを許してもらえなかったから、本来誰もが有しているはずの主体性を発揮できず、周囲と関係を構築する術が身につかなかったのだ。 キャリアブリッジは、そんな若者たちにとっての育て直しの場といえるだろう。 (編集部注) 「国語力」の定義については、『Voice』2023年5月号「危機に瀕する日本人の国語力」の中で、石井氏は以下のように述べている。 2000年以降ほとんどの年度で、企業は入社試験の際に重視する要素として「コミュニケーション能力」を一位に挙げてきた。(中略)だが、コミュニケーションとは複数の能力の総合体であって、語彙や共感性はその一つでしかない。 文部科学省は、この総合的な能力を「国語力」と呼んでいる。まず、人は年齢相応の豊かな語彙を身につけなければならない。その語彙をベースにして、自分の感情を細かく分析して感じ取る「情緒力」、他者の気持ちや見知らぬ世界を思い描く「想像力」、物事の因果関係を考える「論理的思考力」を磨いていく。そしてそれらを駆使して自分を表現することで他者と関係性を築き、社会での立場を獲得する。(中略) 国語力とは、いわば語彙をベースにして、情緒力、想像力、論理的思考力をフル回転させ、社会の荒波のなかでバランスを取りながら進んでいくための「心の船」のような力だ。逆に言えば、それがなければ、人びとはいとも簡単に荒波に揉まれて転覆してしまう。
石井光太(作家)