「パンデミック条約」反対集会に1万人超、拡散する陰謀論 強制接種、その情報はどこから?「光の戦士」発言も
世界保健機関(WHO)で議論されている感染症の世界的大流行(パンデミック)の予防や対応を定めた「パンデミック条約」案を巡り、「ワクチンの強制接種を可能にさせる」といった情報が、インターネットの交流サイト(SNS)を中心に拡大している。賛同する国会議員によって条約反対の議員連盟が結成されているほか、大規模な集会も開かれている。だが、主張の内容は事実に基づかず、WHOが「超国家主体として国家主権の上位に君臨する」といった、陰謀論の影響が色濃い批判も目立つ。(共同通信=佐藤大介) 【写真】「それって陰謀論じゃないですか?」 反ワクチンの地方議員、「覚せい」した元総務相…一人一人に会ってみた
▽厚生労働省は「悪魔」、メディアはYouTube中心 「皆さんは光の戦士です」。5月31日、東京都千代田区の日比谷公園大音楽堂(野音)で開かれた「WHOから命をまもる国民運動大決起集会」で、共催団体の代表が呼びかけた。「光の戦士」は、世界を操る「ディープステート(闇の政府)」の存在を信じる陰謀論者が、それと戦う人との意味で用いる言葉だ。 WHOが条約の制定と、疾病の国際的な流行防止を目的とする「国際保健規則」の改定によって権限を巨大化させ、日本の主権が侵害されると主張し、登壇者が「厚生労働省は悪魔だ」と糾弾する場面もあった。集会は新型コロナウイルスのワクチン接種に反対する団体が主導し、参加者は野音の外も含めて1万人以上にのぼった。 集会に参加した50代の男性は「ワクチン接種を強制しようとする動きをメディアは報じていない。われわれが阻止するしかない」と息巻いていた。娘と参加したという60代の女性も「政府やWHOの言いなりにはならない」と話し、ワクチンの危険性を力説した。
共通するのはメディアへの不信と、政府が何かを隠しているという考え方だが、そうした情報をどこから得ているのかを尋ねると、特定のYouTubeチャンネルなどを挙げ、新聞やテレビは「真実を伝えていないから見ない」と答える人が大半だった。 ▽強制接種の記載、条約案になし 外務省も否定 ステージには、立憲民主党の原口一博元総務相が登壇し、コロナのワクチンを「生物兵器」と呼んで批判した。原口氏はディープステートの存在を公言するなど陰謀論的な発言が目立ち、条約反対の議員連盟でも中心的な役割を担っている。原口氏は集会後の取材に、「テドロスWHO事務局長の横暴を許さない」と語り、活動を活発化させていく考えを示した。 6月のWHO総会では、条約案について加盟国間の意見がまとまらず、交渉を最長1年延期することが決まった。だが、問題となったのは医薬品開発の迅速性と公平性といった点で、ワクチンの強制接種は条約案に記されていない。国際保健規則は改定案が採択されたが、加盟国はこれまで通り、自国の政策に基づき保健行政を進められる。