親に「やめなさい」と苦言…それでも「クレームなし」の中学教師はどんな保護者対応をしているのか
教師の厳しい問いかけにも、保護者は応えてくれる
以前、子どもの指導は「術の前に熱である」と書いたが、保護者と接するうえでも同じことが言える。熱をもってオープンマインドで、不都合なことも包み隠さず伝えていく、これも保護者と接するとき肝心なことだ。深刻な問題ほど(それが学校にとって都合が悪いことであっても)、早めに保護者と情報共有しなければならない。 子どもがスマホを使うのが当たり前になっているのは周知のとおりだ。モバイル社会研究所の調査によると、2023年2月時点で、小学6年生の半数が、中学2年生で8割を超える子がスマホを所有しているという。デバイスの普及にともなって、私の勤務校でも臨時の全校集会を開かねばならないような、大きな問題が起こった。以下、その問題を報告した学級通信を引用する。 ■■■以下、通信より引用■■■ サイバーパトロールから、本校の生徒がネット上で問題行動を行っている旨連絡があった。ひとつは、学校で生活している時間帯に発信があることである。すなわち、何者かが校内に持ち込んでいるということである。もうひとつは、学校のHPから画像をコピペして流していることである。 発信の文にも不適切なものがあるという。早朝から、職員で対応を協議した。 そのようなことを、保護者が知っているか。これが生徒指導主任、学年主任、担任としての私の問題意識の第一である。 みずから責任を取れぬ身分の、しかも善悪の判断力の劣る子供に、自由自在に情報の受信発信ができるツールを与えること自体が、私からすればきわめて異常な行為である。そのことによって生じた問題の責任は誰にあるのか。 無論、持たせた者にある。 責任には三つある。たとえば被害者への謝罪と賠償、加害者への指導と再発防止といった「行為責任」であり、関係者への「説明責任」であり、その後に起きる関連の出来事への「結果責任」である。 これらをわかった上で、すべて自分自身で引き受ける覚悟をもって、子供にツールを使わせている大人がどれだけいるか。今回もまた、大いに考えさせられることとなった。 もう一点、大事なことを指摘しておこう。上記の「発信」を行った者について指導するのは当然のことである。だが、指導されるべきは他にもいる。誰か。そのような情報を「受信」しているにもかかわらず、見て見ぬふりをしたり、煽ったりしている者たちである。 本校の生徒が関係するネットグループは数件あるが、大きいもので1年から3年まで40名以上が所属するグループもある。その約40名のほぼ全員は、今回の件を知っているわけである。 知っていて、アクションを起こさないわけである(このままではいけない、何かしなければと考えている人がいることはわかっているし、信じている)。 これは、由々しき事態ではないか。共に学び共に磨き合う仲間への裏切り。そして、信じる教師への裏切り。そして、家族への裏切り……。それをしていて、平気でいられるか。 「千丈の堤も蟻の一穴から(崩れる)」という言葉がある。どんなに堅固に築いた堤でも、蟻が掘ってあけた小さな穴が原因となって崩落することがある、という意味である。 今回の出来事は、「蟻の一穴」にならないか。いや、すでに水は漏れ始めているのではないか。そのような思いが浮かんでくる。今回の「原因」から、どんな「結果」が生まれるか。君はどう思う。 ■■■引用おわり■■■ 生徒への問いかけを含む、かなり尖った書き方にしたのは、生徒、保護者、同僚の危機意識を喚起したかったからに他ならない。放置すればいずれは学校の「荒れ」につながるからだ。 読者の脳裏には、こんな疑問がわいたかもしれない。 〈なぜネット上のグループ数や所属する生徒の人数まで把握しているのか?〉 〈この指導(全校集会での指導)の結果としてどのような変化が生じたのか?〉 〈こんなことを書いたら、保護者から何らかのクレームが届くのではないか?〉 なぜネット情報を把握しているか。関係諸機関と連携し、自身でも探索活動を継続しているからだ。また、生徒との間にマイナス情報を寄せてもらえるだけの人間関係もある。 指導による変容は間もなく始まった。たとえば全校でLINEグループからの脱会者が続出した。 保護者からのクレームは一件もなかった。「そのとおりだ」「協力する」という激励の便りなら数点届いた。御礼を言ってくれた方もある。 言うべきことを言うべきときに言う。これがきわめて大切だ。事実を基にして何が問題かを明らかにし、どうすればよいかまで明示する。過去十数回このような問題提起をしてきたが、陰口を叩かれることこそあれ、クレームをつけられたことは一度もない。信念に貫かれた行動は伝わるのである。 同著者のこれまでの記事を読む。
長谷川 博之