親に「やめなさい」と苦言…それでも「クレームなし」の中学教師はどんな保護者対応をしているのか
部員に行った指導……果たして保護者の反応は
私がサッカー部の顧問になって1年半後の、ある週末のことである。練習試合に出て、2試合をこなした。荷物を片付け、相手校とグランドで礼をかわす。サッカー名門高校のコーチを兼任している相手校の外部コーチが、こんな言葉をかけてくださった。 「いいチームに育ってきていますね。今日は偶然うちが勝ちましたが、いずれやられるかもしれません。がんばってください」 しかし実は、練習試合の前の週、部内ではちょっとした「事件」があった。練習態度があまりにだらしなかったので、私は全員に対し練習態度のだらしなさを叱り、とくに態度がひどかった6名に対しては、「手を抜いて士気を下げるなら帰りなさい」と厳しく指導した。 6名の生徒がほんとうに帰ってしまった。その6名を私は試合に出さなかった。 中学校の部活動では、勝つことより努力した子が報われるほうが大事だ。部活も教育の一環である。実力主義はその趣旨にはそぐわない。だから私は、チームトップの実力であっても、ルール違反をくり返す部員や、生活態度の悪い部員を試合に出さない。生活のなかで当然守るべきルールすら守れない/守ろうとしないのは、試合を甘く見ている証拠だ。 むしろ、初心者であっても、決められたことを日々コツコツと続けて努力している子を起用すべきだと思っている。この私の信念は、すでに何度となく部員に、そして保護者に語ってきた。 部員の保護者や地域の人間のなかには、私に心ない陰口を言う人もいた。私が立場を貫けば、保護者から反発を受ける可能性はもちろんある。それは覚悟したうえで、私は練習試合のあと慣例になっているミーティングを行った。 ミーティングには部員だけでなく、練習試合を見に来ていた保護者も集まってくれた。そのなかには、練習態度が悪かったことを理由に試合に出さなかった6名の保護者も含まれていたが、私は親にも子にも、率直にこう語った。 「欠席、早退、遅刻、そしてだらけた態度が見られたときは、これからも徹底して指導していきます。態度が改まらない部員を試合に出すことはないでしょう。選手は学校の代表です。代表にふさわしい振る舞いができない者に、選手たる資格はありません」 「挨拶・返事・後始末にはじまる日常のささやかなことをきちんとやっていた生徒は、着実に力をつけ伸びていきます。学校生活や勉強だけではありません。部活でも間違いなく上達していくのです」 「今日は残念ながら2敗しましたが、みんな、確実に上達しています。この調子で頑張りましょう。毎日の小さな努力の上に、勝利があるのです」 最後に保護者のほうを向き、ひとりひとりとしっかり視線を合わせて、こう感謝の言葉を伝えた。 「お休みの日にお車を出し、応援してくださりありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします」 どの保護者も私に真剣な眼差しを向けていた。6名についてのクレームは皆無であった。