計量大遅刻の井上相手王者は減量疲れで「まるで別人」。試合への影響は?
プロボクシングのWBA世界バンタム級タイトルマッチ(25日・東京・大田区総合体育館)の前日計量が24日、都内のホテルで行われたが、王者のジェイミー・マクドネル(32、英国)が体重を落とせずに定刻に1時間7分の大遅刻。3階級制覇を狙う挑戦者の井上尚弥(25、大橋)を激怒させた。マクドネルは懸念されていた計量を53.52キロのリミットから200グラムアンダーでなんとかクリアしたが、そのあまりのやつれぶりに「まるで別人。40歳代みたい」と井上を驚かせた。脱水症状も見られフラフラの王者。その水抜き減量方法の影響が試合にどう出るのか。井上は冷静にKOで葬り去るつもりだ。
計量の定刻となる午後1時を前にJBCからアナウンスがあった。 「チャンピオンのホテルからの出発が遅れて計量は1時30分になります」 実は、午前11時30に宿泊先の横浜駅前のホテルを出発する予定だったが、王者は、その時間になっても姿を見せなかった。12時30分になって、出迎えの関係者に「あと(リミットまで)300グラムだから10分だけ待ってくれ」と連絡が入ったという。 当日に急激な水抜き減量を試みて苦しんでいたのである。 再設定された1時30分になっても会場に姿はない。実は、マクドネルを乗せた車が横浜のホテルを出発したのが1時25分。後で大物プロモーターのエディ・ハーン氏は「交通事情で遅れた」と言ったが、横浜から5分で都内に到着できるほどのインフラは日本にはない。 1時40分過ぎになって井上が控え室から出てきて秤に乗った。1時にあわせて体重を調整してきたため、時間の経過と共に自然の代謝で体重が若干落ちる。わずか150グラムだったが、その分、水分を補給することにしたのだ。そういうギリギリの世界で計量に向けて準備をしてきたボクサーにとって、王者の遅刻は前代未聞の暴挙だった。結局、多少の渋滞にも足を引っ張られ王者のホテル到着は2時少し前にになった。 それを聞き「イラっとする」と井上は、控え室から計量場に移動したが、会場のホテルに着いたはずのマクドネルが現れない。ホテル到着後、トイレに“篭城”していたのだ。最後の最後まで数グラム単位で水分を絞り出していたのか。ようやく2時7分になってマクドネルはメディカルチェックを拒否して会場に直行してきたが、その姿を見た井上は唖然とした。頬がこけ、目がくぼみ、足元もフラフラ。 「昨日との変わりようにびっくりです。まるで別人。40歳に見えた」 大橋秀行会長も「最初は誰だかわかんなかった」というほど憔悴しきっていた。 「ふーっ」。マクドネルは、大きなタメ息をつき、おそるおそる秤に乗った。 結果は200グラムアンダー。計量という難関をクリアした王者陣営は「ウォー!」と、まるでもう試合が終わったような大きな雄たけびを上げて拍手をしていた。 本来、定刻に井上が先に計量を済ますこともルール上OKだった。 だが、大橋会長が「後でどんな文句をつけられるかわからないから」と慎重を期して王者の到着を待った。「さすが100年を越す日本のボクシングの歴史上、英国から来る初めての王者だけあるねえ。俺が現役時代は11時には来ていたけど」と皮肉をぶつけた。 井上の怒りも収まらない。 計量後の第1声は「ふざけてますよね」。 「謝りの言葉ひとつない。腹がたつ。陣営の態度にイラっときますね。1時間遅れはありえない。明日、(この気持ちを)ぶつけますよ」 写真撮影を求められたフェイスオフでは、紳士な一児の父親が珍しく、恐ろしく怖い目をして英国王者をにらみつけていた。 計量時間を守らなかった違反についてWBAのスーパーバイザーであるレンツォ・バクナリオル氏(ニカラグア)は「リスペクトのできる行為ではないが、体重超過した場合も2時間の猶予を与えられる。そう考えると1時間の遅刻は許容範囲だろう」という見解を述べた。元WBC世界バンタム級王者のルイス・ネリ(メキシコ)、元WBC世界フライ級王者の比嘉大吾(白井・具志堅S)と続けて世界戦で体重超過が起きて社会問題化していたことを考えると、よれよれになりながらも契約体重を守ったことは評価できる。 井上も「6度防衛している王者、そこは信じていましたけどね」と敬意を表した。