パリオリンピック・マラソンで男女ともに6位入賞が示す「MGCの効果」とは?
【MGCの効果を示した6位入賞】 鈴木も、赤﨑も、上り対策がうまくいき、難コースを克服できたからこその入賞だった。赤﨑は「この3カ月間は綾部総監督に、やめたくなるほど坂練習をさせられてきたので、そのおかげで入賞できたのかなと思います」と話す。鈴木も「故障がレースの2カ月半くらい前のことで、練習できない時期は不安だったが、そこからジョグでもアップダウンの長いコースをずっと走ってきた」と言い、山下コーチも「上りは普通に走る時とピッチで上る時もあり、傾斜度による使いわけは練習の時もやっているので、そこは長けていると思う」と評価する。 ともに昨年10月の五輪代表選考会・MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)で代表権を獲得した(赤﨑は2位、鈴木は1位)。赤﨑は好成績の要因を「注目されるのは小山直城さん(Honda)や大迫傑さん(Nike)に任せて気楽にやれたところ」と挙げるが、走りの面でも昨年末はスピード強化、年明けから本格的なマラソン練習に入って上り坂対策もジックリできた。鈴木も「10カ月間という期間は自分に向き合って気持ちを整え、『さあ、スタートだ』と切り替えるために非常に必要な期間だった」と言う。またその間、感じていたプレッシャーも、ケガをした期間があったことで「できることをやるしかない」と吹っきることができた。 高岡寿成氏(日本陸連中長距離・マラソンシニアディレクター)も、ふたりの6位入賞におけるMGCの効果を高く評価する。 「それぞれの専任コーチが調子に合わせたレース戦略を練ってくれたのが6位入賞につながった一番の要因だが、代表が10月に決まったことで、コースを下見したり、坂対策を早い段階からできたのがよかった。日本陸連科学委員会としても準備期間が長いなかで、各選手の体を知った上でここ(パリオリンピック)に向けたサポートをできたこともいい影響を与えたと思います」 前回の東京五輪は新型コロナ感染拡大で本大会が1年延期、入賞したのは男女ともにファイナルチャレンジで代表権を獲得した大迫(6位)と一山麻緒(8位)だった。それぞれの事情があったとはいえ、MGCで権利を得た男女計4名が万全の状態で本番に臨めなかったこともあり、MGCの評価は難しかった。だが今回は難コースへの対策を含め、評価できる結果だった。 かつて日本男子マラソンが世界をリードしていた1980年代は、冬の3大会が選考レースになっていたが、選手や関係者の意向で、実質的に12月初旬の福岡国際マラソンで一発勝負になっていたこともあった。そこなら一番長い準備期間が取れるという発想からだった。 それをさらに進化させたMGCという形式は、今後も本番のコース設定を考慮するなどの改良点はあるだろうが、有効な選考方式になっていく可能性を示したと言えるだろう。
折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi