考察『光る君へ』11話 まひろ(吉高由里子)だって、本気で北の方になれるとは思っていない!倫子(黒木華)と同じ意中のその男性の
まさにこの世を掴んだ男
内裏に直廬(じきろ/貴人用の個室)を設け、そこで政務を行う摂政・兼家……纏うのは勅許(天皇のお許し)がなければ着られない色、白と赤の組み合わせで、天皇とほぼおそろカラー。 除目(人事)も直廬で摂政が行うから、もうビジュアルで「朝廷は兼家のものである」と大臣、参議らに知らしめる効果が抜群である。そんな中で発表される、兼家の息子たちの露骨な昇進。誰が異を唱えられようか……。 幼い帝も東宮も、どちらも兼家の孫なのだ。まさにこの世を掴んだ男だ。 ほんとに……いくら必死だったとはいえ、こんな人物によくまひろは直訴しに行ったものだ。宣孝の言う通り「お前すごいな」である。
生首事件!
一条天皇(髙木波瑠)の即位式の朝。帝がお召しの袞冕(こんぺん)十二章の鮮やかさに目を奪われる……が。 高御座(たかみくら)に生首! うわぁ、これ大河ドラマでやるんだ! と悲鳴が出た。戦国時代や鎌倉時代など、動乱を描くことが多い大河ドラマには首桶がつきもの……であるが、今年はついに首桶なし。去年の『どうする家康』でも首桶無しではあったが、兜でほぼ隠されていたから……今回はチラッとでも、かなり生々しい。 歴史物語『大鏡』ではこのときのことを、 “高御座の中に髪が生えたままの頭があり、その血が付着していた。それを兼家に知らせにゆくと、何も言わず眠ってしまった。その後に目を覚ますと、御装束(高御座の支度)はもう済んだかと訊ねた。” とある。摂政は凶事を聞かなかった、何事もなかったのだと。 ドラマでは「穢れてなどおらぬ」と、こともなげに袖で血を拭きとる道長。赤い袍だからって、咄嗟にそんなことする!? できる道長がおっかない。 少年の頃に、血を浴びて帰ってきた兄を、様々な汚い手を使ってのし上がってきた父を見てきた道長。そして自分は、友の亡骸を自らの手で埋めた。それでも一族は朝廷を掌握している。穢れなど、現実にはなんら影響を及ぼさないのだ……と思うに至るのではないだろうか。 それにしても「誰かに漏らせば命はないと思え」という脅し文句を平然と使う。道長は少しずつ変わってしまいつつあるのか、それとも、もともと体に流れる兼家から受け継いだ藤原の血が表に現れ始めているだけなのか。 生首が乗っていた高御座で儀式を行う一条帝。まがまがしい事件から即位式まで流れ続ける音楽に、映画『ゴッドファーザー』洗礼式のシーンを思い出した。 血生臭く、荘厳な儀式であった。 そしてこのドラマでは、事件の犯人と示唆される花山院(本郷奏多)は、播磨国書写山圓教寺に旅立って行った。旅立つということはいずれ帰ってくるということだ。花山院がいない本作品は淋しいので「I’ll be back」であってほしい。 このすぐあとの場面で伊周が登場するし、花山院はいずれきっと帰ってくると思われる。それはまた、もっと後の話。