【女性弁護士座談会】朝ドラ『虎に翼』と法曹界のジェンダー問題 鴨志田祐美/武井由起子/大沼和子
法曹界における夫婦別姓の現実は
大沼 夫婦別姓について一言申し上げたいんですが、『虎に翼』で寅ちゃんが星さんと再婚する時に、星さんが姓を変えるよと言ったら、義母の百合さんがものすごい反対したじゃないですか。それに対し女性が姓を変えるのが当たり前の世界。なんでここまでこんなに差があるんだろうと思いますよね。法制審議会が96年に答申を出したのに、まだ夫婦別姓が実現しないわけです。 武井 皆さん、いかがですか。武井は通称で、本名は違います。 大沼 私も修習生時代は通称でした。弁護士登録と同時に離婚して別姓になってます。一旦結婚して離婚するのはなかなか大変なので通称が使えればいいなと思った時期がありましたが、通称でいいんじゃないかという話じゃなくて夫婦同姓が実は憲法違反だったんじゃないかということだと最近思います。寅ちゃんが夫婦同姓に疑問を覚え、「夫婦のようなもの」になったのは、ドラマのあの時代では唐突な感じがしたかもしれません。憲法14条とか24条を突き詰めて考えていけば、選択的夫婦別姓がなかった以上、夫婦のようなもの、事実婚になったというのがある意味自然だったかなと思います。 鴨志田 あそこは完全にフィクションで、三淵さんは旦那の苗字なわけですが、これは制作側の強い思いがあったからこういうストーリー設定にしたんですね。 私は逆に何のポリシーもない、まだこの業界に入る前に結婚する時に、家というものに2人とも全くこだわりがなくて、本当にギャグのような話なんですけど、私は三文判しか持ってなくて夫が10万円の象牙の実印を持ってたので、象牙の実印が無駄になるのはもったいないよねってそれで夫の姓を選択したという、本当にふざけたやつなんです。ただ、大沼先生がおっしゃったように家というものに縛られて、どっちの苗字になるか揉めて百合さんが泣き叫ぶみたいな、家制度の存在という問題が崩されていかなければいけないということもありますね。 武井 今の憲法では、選択的夫婦別姓は最低限認められないといけないと思います。実際、私は通称ですけど、とても不便です。銀行は、海外送金するならマイナカード持って来いと言うのですが、武井由起子というマイナカードはないから海外に送金が発生するような事案をやるのが難しい。 大沼 私、修習生時代に通称で呼んでくださいと頼んだら裁判官教官がすごい抵抗を示したんですよ。ドラマの中でも出てきましたけど、判決を書く時って署名するじゃないですか。それが戸籍名じゃなければ、判決に変な文句がつくのは困る、裁判の神聖に疑いを持たれるのは困ると。基本はやっぱり戸籍名なんですよ。平成30年から裁判官の通称使用が認められたということですが、私が裁判官だった時は、逮捕状を書くにしても判決を書くにしても戸籍名でした。今はそれが通称で可能なのか、実態はどうなってるのかなってもうやめた後だったんでわからないんですけど。夫婦同姓の根っこには戸籍制度があり、その呪縛というか、そういうものが関係していると思います。 ところで選択的夫婦別姓については経団連が導入の意見書を出しました、そしてそれは女性役員が声をあげたからだと報道されています。つまり女性の意見を社会に反映させるためには一本釣りされた1人の女性の声では足りず、複数の女性の声、いわば女性枠が必要なことの良い例だと思います。