【女性弁護士座談会】朝ドラ『虎に翼』と法曹界のジェンダー問題 鴨志田祐美/武井由起子/大沼和子
大きな反響を呼んだNHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』が9月末に終了した。このドラマが提起したものは何だったのか、また法曹界におけるジェンダー問題とはどういう状況なのか。(編集部)
リーガルドラマは観ないが『虎に翼』だけは観た
鴨志田 『虎に翼』の主人公・寅子(ともこ)のモデルとなった三淵嘉子さんは、女性で初めて弁護士になった3人のうちの1人で、女性で初めて判事になって民法改正や家裁の創設期に活躍をした人です。朝ドラで三淵さんを取り上げるというのはかなり前から聞いていましたが、実際のドラマは、私の想像を遥かに超えていました。 例えば戦前の「妻の無能力」というところに関わる事件として昭和6年7月に言い渡された「物品引渡請求事件」が取り上げられ、大疑獄冤罪の「帝人事件」をモデルとした事件、戦後は公害訴訟、公務員の労働基本権、そして原爆裁判、さらにはブルーパージの嵐と、司法の歴史を幅広く俯瞰(ふかん)しています。 それらをちゃんとドラマの中に取り込んでいるだけでなく、それが過去の終わった話ではなくて全部現代に積み残されている、今につながっている話だと訴えかけていく。 観る方も覚悟を持って受け止めないといけないという思いにさせられました。 武井 私は、弁護士の前は会社員だったので、朝の連続テレビ小説は観ようがないというか、今回観たのは50年ぶりなんです。そもそも最近の日本のドラマにうんざりしていますし、特にリーガルドラマって本当に観ない。現実とかけ離れていて、こんなに簡単だったら苦労しないよみたいな感じだったんです。そもそもドラマ自体、観てるのは韓流ドラマだけといった具合でした。 ただ今回の『虎に翼』は、同じ日本のドラマかと思うくらい、いろんな人に刺さっていると感じます。SNSの掲示板でも、大勢の人が議論していました。 気になったのは、LGBTQや夫婦別姓について、現代の問題をなんで昔のドラマに入れ込んでるんだという批判が多かったことです。それを見るたびに、いやいやマイノリティというのは昔から確実にいたんだと。LGBTQだって太古の昔からあったし、家族の姓の問題についても、特に戦後、お兄さんが出征して帰ってこなくて弟がお兄さんの嫁とくっつけられたという話があるぐらいで、家族や氏を残すというのは、もっと深刻な問題だったんじゃないかと思うんです。 脚本家の方も「こういう問題は、マジョリティのあなたにわからないかもしれないけどいっぱいあるんだ」というのをつきつけていますし、私自身も、それが成功してるなと、しめしめと思って観ていました。 一方でブルーパージの問題があって、憲法は素晴らしいものができたけど上手に使いこなせてない中で、権力を持っている人がバックラッシュというような形で憲法で与えられた権利を奪っていく。今般、導入された共同親権制度も、同様なバックラッシュだと感じます。 大沼 私は弁護士から裁判官、検事になる弁護士任官制度によって一時期、裁判官もしていました。司法試験に合格すると、弁護士任官制度によって弁護士から裁判官とか検事にもなれる。ある意味、違う視点から事件を見ることができる立場に立つことができる。これは司法試験の大きな魅力ではないかと思っているんですね。 少年事件は違うんですけれど、民事にしても刑事にしても当事者主義といって、当事者がそれぞれ議論をして自分の主張を出す、それに基づいて裁判官が判断するということなんですが、それぞれ立場が違うわけです。弁護士をやって裁判官をやるというのは、違った視点から事件を見ることができて物事を相対化できる、そこも魅力の一つかなと思います。 ただよくよく考えてみたら、戦前はそもそも女性は弁護士になることができなかったわけですね。また弁護士になれても裁判官になることができなかった時代もありました。裁判官、検事と弁護士とは試験や養成制度も違っていました。 それに対して日本国憲法ができ、かつ裁判所法ができて、後には別々の法曹三者になる司法修習生が研修所では一緒にスタートを切ることができる、そういう制度に変わりました。戦後の日本国憲法の平等原則というのは女性だけでなく法曹にとっても素晴らしいものだった、と『虎に翼』を観ながら改めて感じました。