「裸になれば受け入れてもらえる」“20代のすべて”を風俗業に捧げたシングルマザーが、過去を隠さず“天職”に出会うまで
32歳で結婚した夫から衝撃の告白
当時、彼女には同棲している恋人がいた。彼にはカフェで働いていると嘘をついていた。それも心苦しかったという。32歳のとき彼女は店を辞め、結婚した。34歳で子どもが産まれたが、1歳になったころ夫から「結婚したい人ができた」と告白された。浮気じゃない、本気なんだ、と。 「そう言われたら引き止めることはできませんよね。それからは子どもとふたりの生活です。なんとか育てなければいけないから、漢字の練習をしてパソコンを学んで……。必死でした。母親になった自分が風俗に戻ることは考えられなかった。週に6日の事務職を得て、ようやく普通の生活ができるようになって、それはうれしかったですね」 子どもとふたり、贅沢をしなければ「普通に」暮らせることが何より重要だった。パートさんたちとも和気藹々と過ごすことができたのも喜びとなったが、40代後半にさしかかったとき「夜10時に大量のコピーを取っていることが、突然、虚しくなった」という。 「私の人生、これで終わるのかと。ちょうど子どもが中学生になって、少し自分の時間ができてきたので街歩きを始めたんです。気になるところはスマホで写真を撮ってSNSにあげたりして。都内には意外と三業地とか、かつての赤線、青線の名残がある。そんな場所を歩きながら、自分がいた吉原も、江戸時代は遊郭だったとわかってその歴史を調べるようになったんです」
独学で学んだ写真が放つ“妖しい魅力”
風俗にいたのは、彼女にとってずっと「恥であり、後悔ばかりしていた」のだが、かつて吉原は、そのときの流行の発信地であり、今となっては文化的側面も指摘されている。文化として風俗を語り継いでいきたいという思いが強くなり、一眼レフのカメラを買ってあちこち撮影するようになっていった。それをSNSに載せたところ、出版社などから声がかかるようになる。 「だんだん、こちらの仕事が忙しくなってきて、2年前に会社を辞めました。フリーランスになるなんて何の保証もないから悩んだし、会社に引き止めてももらったんですが、思い切ってやってみようと」 もしかしたら、彼女にとって初めて自分の意志で選び、つかみとった仕事なのかもしれない。写真は独学だが、彼女の撮った吉原や元ソープだった店などは独特の昏い光を放った魔力さえ感じる作品となっている。 「つい先日、60年も続いたソープが閉店すると聞いて撮影させてもらったんです。働いていた女の子にも話が聞けて……。店も女の子も、とてもいい雰囲気なんですよね。お客さんへの愛がある。お客さんも店や女の子に深い思い入れがある。私は残念ながら、働いているときに店や風俗への愛をもてなかったけど、こういうお店もあるんだなと新たな発見がありました」 このところ、全国の色街を撮影、「紅子の色街探訪記」として冊子にまとめている。2025年5月には東京・吉原と、大阪・飛田新地で写真展を開催、あらたな写真集も出版される予定だ。今も遊郭の雰囲気が色濃く残る飛田新地は全面的に撮影禁止になっている。彼女は飛田会館に挨拶に行き、写真を通して遊郭の歴史を伝えている自らの活動を話した。「受け入れてもらえている」という感覚があったと、彼女はうれしそうに言う。「ちょうど万博が近いので、飛田が未来につながるような写真を探していたところです」と言われたそうだ。 「その言葉が本当にうれしかった。私の過去が、後悔のまま終わらずにすむような気がしました。これからも写真を撮り続けたいと思っています。それが私の宿命だと思うから」 最後はきっぱりとそう言って、紅子さんはまたふわりと微笑を浮かべた。 <取材・文/亀山早苗 撮影(人物)/渡辺秀之 写真提供(色街写真)/紅子> 【亀山早苗】 フリーライター。著書に『くまモン力ー人を惹きつける愛と魅力の秘密』がある。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio
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