Gグローブ賞4冠の『SHOGUN 将軍』には原作小説があった。「史実を知ってる日本人」でも“架空”の戦国大戦に胸を躍らせるワケ
関ヶ原の戦いをモチーフに
舞台は西暦1600年の日本。日本に漂着したオランダ船のイギリス人航海士ジョン・ブラックソーンは、日本の侍たちに捕らえられ、最終的に関東の大物大名である吉井虎長の家臣となり、大坂で政治の実権を握る石堂和成と虎長との、日本の覇権を懸けた戦いに巻き込まれていく……。 と、こう書くと、ほとんどの読者の皆さんは 「ちょっと待った! 吉井虎長? 石堂和成?それは誰!? 1600年の日本で争ったと言えば、徳川家康と石田三成でしょ!」 となるだろう。 本作はあくまでも実際の史実をベースとしたフィクションであり、そのため、モデルとなる人物たちの名前を使わずに、それぞれ別の名前をつけてあるのだ。 なんでそんなことを、とお思いの方もおられるかも知れないが、実はこれ、日本でもわりとお馴染みの手法ではある。 もっとも顕著な例は、NHKのテレビドラマである〈朝の連続テレビ小説〉だろう。あの枠のドラマでは、実在の人物をモデルにした場合、主要登場人物たちの名前を変更し、史実にある程度沿いつつも、あくまでも架空のドラマとして物語がよりドラマティックになるよう、脚色が為されている。 本作もまさに同じ意図のもと、登場人物たちに新たな名前を与え、史実の大枠からははみ出さないようにしながらも、より劇的で波瀾万丈な展開を用意している。それはまた、元々の史実を知らない英米の読者に対して、よりわかりやすい物語にすることで読みやすさを担保するためでもあったと考えられる。
細川ガラシャ以上に悲劇的な運命を
何にせよ、海外の読者にとっては問題はないものの、日本の読者にとってはいちいち「これ、誰だっけ?」と脳裏に疑問符が浮かびがちなのは事実だろう。 だが、それは逆に言えば、我々史実を知っている日本人にとっても、物語の次の展開が読めない、ということであって、まるで未知の物語のように「このあと、いったいどうなるのか?」とどきどきしながら楽しめるようになっているのだ。 読者の皆さんにも、一度頭をまっさらにして、この「知っているようで知らない」もう1つの戦国最後の対決を楽しんでいただきたい。 中でも、本作のヒロインである戸田まり子は、史実における細川ガラシャをモデルとしているのだが、ある意味、本作の真の主人公は安針でも虎長でもなくまり子なのだと言うこともできるほど、史実のガラシャ以上にドラマティックで悲劇的な運命を辿ることになるので、ご注目いただきたい。 <構成・文/日刊SPA!編集部>
日刊SPA!