全固体電池、熾烈な開発競争の現在地。ホンダも量産化に向けてパイロットラインを公開
リードする日本勢の背後に迫る中国勢。その開発スピードの速さは驚異的
これで日本の電動モビリティは安泰か、と言えば必ずしもそうとは断言はできなくなってきた。海外のメジャープレイヤーたちが、日本との距離を急激に詰めてきているのだ。なかでも中国勢の動静は注視していく必要がある。 「EV用の全固体電池はあと2~3年で高級EVに搭載が始まる」と予想したのは、中国BYDのチーフサイエンティストを務める廉玉波氏である。廉氏は、「全固体電池がEVに搭載される時期は、大方の予想よりもかなり前倒しされて、あと2~3年後には高級EVから採用が始まり、5年後には中~低価格帯のEVにまで普及していく」と語った。 全固体電池を巡る直近半年間の中国勢の動向から、目立ったものを以下に抜き出してみよう。 ・4月:広州汽車(GAC)が2026年から大容量全固体電池を実車に搭載する計画を発表 ・5月:CATLが2027年に全固体電池の小規模生産を開始する計画を発表 ・6月:中国政府がCATL、BYD、SAIC、Geely、第一汽車、WeLion New Energy Technologyの6社に全固体電池の研究開発に総額60億元(約1200億円)の支援を発表 ・8月:上海汽車が2026年までに全固体電池を量産化する「500日カウントダウン計画」を発表 ・9月:中国CATLが2027年に全固体電池の小規模生産計画を発表 ・11月:CATLが全固体電池のサンプルテスト開始を発表 <以上出典:36Kr Japan/日本経済新聞> 現地メディアによれば、CATLは研究開発チームを1000人以上に拡大しており、2027年の小規模生産に向けて巨額の開発投資を行っているという。また、広州汽車や上海汽車が2026年に全固体電池搭載車をデビューさせるとの発表も大いに気になるところだ。トヨタを意識したものだと思われるが、もしも実現すれば世界に与えるインパクトは相当なものになる。
欧州勢と韓国勢は北米市場の覇権を狙っているのか?
一方、欧州勢ではメルセデス・ベンツ、BMW、フォルクスワーゲンなどもゲームチェンジャーとなるべく虎視眈々と機会をうかがっている。欧州勢に特徴的なのは、いずれも米国スタートアップを中心に国外のパートナーとタッグを組んで開発を進めている点だ。メルセデス・ベンツはFactorial Energy社やProLogium社、BMWはSolid Power社、フォルクスワーゲンはQuantum Scape社など、北米のスタートアップを中心にいずれも複数のパートナーと組んで開発速度をあげている。日本勢が莫大な投資にもかかわらず技術の「手の内化」にこだわるのとは対照的だ。 すでに車載バッテリーで中国勢に次ぐ世界シェアを誇る韓国勢の動向にも注目しておきたい。SKオンはすでに全固体電池のパイロットライン建設に着手しており、2025年には稼働を開始する予定。また、LGエナジーソリューションも2030年までの量産化を宣言している。サムスンはすでに試作品を発表しており、GMとの共同生産計画も発表している。当然、お膝元であるヒョンデやキアにも、国内生産の全固体電池が搭載されるようになるだろう。 以上、ざっと俯瞰しただけでも、全固体電池を巡る開発競争がいかに熾烈なものであるかがご理解いただけたのではないだろうか。現状では日本勢がまだ一歩リードしている感はあるものの、すぐ後ろには中国勢が迫っており、ことによっては立場が逆転しかねない。 全固体電池はEVだけのものではない。バイク、空飛ぶクルマ(eVTOL)、さらにはボートや貨物船まで、陸・海・空のあらゆるモビリティの電動化を革新する技術だ。これをいち早く、しかも低価格で提供できたプレイヤーが次世代モビリティの覇者となる。そして、それが我々のモビリティライフに与える影響はとてつもなく大きいはずだ。
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