【伊達公子】全日本テニス選手権を活性化させるためには明確にターゲットを絞る必要がある<SMASH>
全日本テニス選手権が、10月4日から13日わたり有明テニスの森で行なわれました。女子は10代の2人が決勝で戦い、日本一というタイトルを取りたいという思いが感じられました。ただし、冷静に現状を見れば、上位選手の出場が少なく、観客の数も少ないという事態に陥っています。 【画像】19歳・石井さやかが全日本選手権優勝!齋藤咲良とのフルセットにもつれた激戦を厳選ショットでプレイバック! 日本テニス協会も全日本選手権の活性化のために、賞金、スケジュール、フォーマットを変えたり色々と模索していると思います。しかし、全日本をどういう大会にしたいのか、ターゲットを誰に絞るのかが明確でないと、答えは出てこないのではないでしょうか。 私のファーストキャリアの時、80年代後半から90年代前半の頃とは、大会の位置付けが変わってきています。その時は、10代で全日本のタイトルを取ってから世界へという感じで、取らないと世界に完全に移行できないという雰囲気でした。当時は全米オープン2週目と全日本が重なっていました。グランドスラムで日本人が2週目に残るというイメージが全くなかった中でのカレンダー設定だったのです。 とはいえ世界のツアーを周りながら全日本にも出場することは、いろんな意味で簡単ではありません。だからこそプロになってなるべく早い段階の10代で取るという感じでした。今回の女子決勝の2人と見ると、時代は違えど同じような意味合いを持って挑んでいたのかなと感じました。 今の時代、世界に目を向けている選手が多くなっているため、選手の意識も変わっています。世界のツアーカレンダーが過密になっていますし、その中でシーズンオフやトレーニング期間を取らなくてはいけません。国内大会と世界ツアーとのバランスを取る難しさは昔以上にあります。 それでも全日本に出場したいと思わせる魅力があるかといえば、難しいところです。賞金も私たちの時は200万円で今は400万円になっていますが、世界の賞金額の増額を考えれば魅力的とは言えません。 また「日本一」という称号ですが、テニスは世界がこれだけ近くなり、日本一を最も大きな目標にしていた時代とは違います。世界ランキングを上げていき、世界のツアーの中で戦っていくことが必要なだけに、全日本に照準を合わせてスケジューリングすることは難しく、選手側と協会との思いの違いがあり大会の意義が見えづらいものがあります。 日本のナンバー1を見せる大会にするのか、普及を兼ねて全国のテニスプレーヤーが日本一を目指せる大会にするのか。両方を取ろうとするのは、レベルが違い過ぎるので無理があります。おそらく、今年はそのレベルの差を考慮して、シード選手は1、2回戦をBye(不戦勝)にしていると思いますが、これには違和感がありました。上位選手に出てもらうための工夫で、大会自体の価値が上がる方法だとは思えません。 どのレベルの選手でも、地区予選から参加して頂点を目指せる大会にしたいのであれば、上位選手の不参加や観客の少なさについて考慮する必要はなくなります。上位選手が出場して本当の日本一を見せる大会にして観客を動員したいのであれば、今のフォーマットでは難しいと思います。 文●伊達公子 撮影協力/株式会社SIXINCH.ジャパン