渋谷で行くのはドンキ、ニトリ、ハンズ。伊藤忠岡藤CEO流「商売のセンス」の磨き方
世界的な原料高騰が続く中、追い風を受ける日本の商社業界。中でも伊藤忠商事は財閥系以外の総合商社として時価総額を大きく伸ばしている。なぜ、伊藤忠は圧倒的な成長を遂げているのか。その答えの一つは、創業以来受け継がれてきた「商人」としての心構えにある。 【全画像をみる】渋谷で行くのはドンキ、ニトリ、ハンズ。伊藤忠岡藤CEO流「商売のセンス」の磨き方 本連載では、岡藤正広CEOをはじめ経営陣に受け継がれる「商人の言葉」を紐解きながら、伊藤忠商事がいかにして「商人」としての精神を現代に蘇らせ、新たな価値を生み出しているのかを深掘りしていく。 今回は、岡藤CEOが決めた「か・け・ふ」について。
「か・け・ふ」の防ぐ
伊藤忠が掲げる商いの3原則である「か・け・ふ」で、もっとも重要なのが「防ぐ」ことだ。防ぐとはすなわち、特別損失をなくすこと、伊藤忠の幹部たちは特別損失を防ぐため、日ごろから本体の組織、そして、約270の関連会社の経営状況をチェックしてサポートしている。 伊藤忠の場合、関連会社の経営を本社が注視している。注視して、アドバイスして、サポートする。岡藤とCFOの鉢村剛は関連会社すべての社長の名前をそらんじているし、主業務の概要、業績、幹部の人事を頭に入れている。 鉢村は本体の財務を統括しているが、関連会社へも部下を派遣して、細かく経営指導をしている。日ごろから関連会社の状況を把握し、不測の事態が起こっても素早く対応ができる体制を取っている。それが「防ぐ」だ。「防ぐ」とは情報を定期的に収集し、いざという時、素早く対応することだ。 鉢村は「防ぐ」の効用をこう説明する。 「不測の事態が起きないようにすることです。不測の事態とはすなわち『想定しないような損』が出る時のこと。そうならないために何をすればいいかを私は関係各社を含めた全社に徹底するのが役目です。 それを当社ではコミットメント経営と呼んでいます。ここまで徹底してやっているのは総合商社でもうちだけかもしれません。 各社の営業パーソンは毎日、お客さんの顔を見ているのか。お客さんがどういう状況になっているかを把握しているのか。工場へ行ったら在庫を確認しているのか。店舗へ行ったら、売れ筋はどういうものかをチェックしているのか……。そこまで徹底しています」 かけふのうち「防ぐ」ことは岡藤の経営で、もっとも大きな特徴だろう。稼ぐ、削るをやっている会社は少なくないだろうが、防ぐを徹底しているところは聞いたことがない。 言葉だけを聞くと、「防ぐ」とは防御的で消極的な経営施策のように感じる。だが、確かな準備と引き際を早くすることは経営の名人にしかできない。