渋谷で行くのはドンキ、ニトリ、ハンズ。伊藤忠岡藤CEO流「商売のセンス」の磨き方
「それ、得意だからやります」
「まずイエスから入れ」という言葉を知って、思い出したのが、プロデューサーの秋元康から聞いた話だ。 彼が放送作家としてデビューした当時のエピソードで、商人の言葉とも取れるものだ。 放送作家はテレビの仕事が終わると、みんなで酒を飲むことがあった。新人だった秋元は先輩たちが「オレは直木賞を取って作家になる」「映画を監督する」と言っているのを聞いて、内心、感心した。しかし、2年後も3年後も彼らが同じことを言っているのを見て、ふたつのことを決めた。 ひとつは酒を飲むのをやめた。そういう場所に行かなければいいと思ったのである。 もうひとつは自分は放送作家だけでなく、作詞家、作家、映画監督のすべてになってやると決めた。 以後、彼はそれまでにやったことのなかった仕事を頼まれたら、次のように即答することにした。やれるかどうかなど考えずに、「得意だからやります」と返答した。 「秋元さん、あなた、海外の歌の訳詞はやったことある? やってみない」 秋元はこう答えた。 「ありがとうございます。僕は放送作家になる以前から訳詞と作詞ばっかりやっていました。特に訳詞は得意だからすぐやります」 実際のところは秋元は訳詞、作詞はやったことはなかった。しかし、やることにした。 歌詞を書いてみたら、曲はヒットした。作詞、訳詞をやった。すると、今度は「映画監督をやらないか」と依頼された。 「あ、それ、得意だからやります」 小説でも、プロデュース業でもなんでも依頼されたらやった。 そうしているうちに彼は作詞家として日本一になり、小説も映画もヒットさせた。
「商人は現場で商売のセンスを磨く」
話は伊藤忠に戻る。 働き方を変えるひとことに入るのが「現場へ行く。現場を感じる」ことだ。商人は現場に行ってそこで商売のセンスを磨くからだ。 「社長室にふんぞり返っていては経営はできない。人を呼んで『これ、どないなっとるねん』と聞くことは大事。しかし、聞いただけではいけない。聞いたら必ず自分で検証に行くこと。部下の報告をそのまま聞いて判断しているようでは生きた経営は出来ない。 僕自身はいろいろな店をのぞきますが、近頃よく行くのは渋谷ではドラッグストア、東急ハンズ(現・ハンズ)、そしてメガドンキにニトリ。デンタルフロスの値段を比較したのだけれど、ドラッグストア、東急ハンズ、メガドンキでいちばん安かったのはメガドンキ。感心して、うちに帰ってアマゾン値段を調べたら、ネットはもっと安かった。 商品のディスカウントの仕方にも特徴がある。例えばメガドンキは他の店でも普通に売っている商品は安くする。一方で、独自のプライベートブランドは安くはしない。プライベート商品で利益を出すわけだ。こんなことは現場に行かないと分からない。 レポートを読んでるだけでは、こうしたディテールは分からない。しかし、商売に大事なのは細部の事実だ。どういうお客さんがいて、何を買うかを自分で見ることが商人の勉強です。会社の経営だって、そういう目線でしなくてはいけない。自分が足を運んでいって見たこと、聞いたことがセンスになる」
「穏やかな人がいいものを作る」
岡藤はふとしたことに疑問を持つ。それもまた商売のセンスだ。
野地秩嘉